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[コメント] It(1990/米)

スタンド・バイ・ミー』で言うところの”The most important things”が、上手く映像化しきれていなかった。
Pino☆

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 The most important things are the hardest things to say. They are things you get ashamed of, because words diminish them ・・・ (Different Seasons 289p より)

 「最も大事なことは筆舌に尽くし難い」

 スティーブン・キングは、『スタンド・バイ・ミー』の原作である短編小説”The Body”の冒頭部分で、多感な少年時代に誰もが抱く胸の内を、この様に見事な表現で代弁している。また、その重要なことは、「言葉にすると色あせてしまうため、泣きそうになりながら必死に打ち明けても、他人には、何を言っているのだろう? 何故そんな事をそれほど大事に考えているのだろう? という目で見られかねない。」とも言っている。見事な表現である。

 映画『スタンド・バイ・ミー』では、それぞれ人には言えない大事なことを抱えた少年4人組が、死体探しという冒険を通して、普段見せない弱さや背負っているものを徐々に曝け出し、友情という深い絆を通して、お互いの大事なことを共有していく姿を見事に影像化していた。この作品は、まさに”The most important things”を表現し切った映画であった。

 私は本作『IT』の原作小説が大好きである。なぜなら、『IT』も、『スタンド・バイ・ミー』でいうところの”The most important things”を見事に代弁した作品だからである。

 従って、映像化された本作『IT』にも私は同じ期待をしていた。原作を読んだ印象では、ペニー・ワイズという架空のモンスターが登場する本作は『スタンド・バイ・ミー』ほどピュアな人間ドラマ的ではないが、前述の様に『スタンド・バイ・ミー』と全く同じテイストを感じさせてくれるという点で、素晴らしい作品だった。原作本の装丁やビデオのパッケージは、いかにもホラー作品の路線で作られているが、内容は少し違っており、優れた作品として賞賛されているのは、ホラーとしての怖さよりも、むしろ人間ドラマとしての感動要素の方ではないかと思う。つまり、モンスターはあくまで、人間関係を語る上での触媒に過ぎないのである(『スタンド・バイ・ミー』の死体と同じ)。しかしながら、本作はどうやら路線を間違えたらしい。というか、後半からボタンを掛け違えてしまったようだ。

 細かく紐解いていく。まず、ここに登場する7人の子供達は『スタンド・バイ・ミー』と同様、肥満、近親相姦、弟を死に至らしめてしまった過去、過保護な親、人種差別などなど、様々な重い悩みを抱えている。そして、前半部はペニー・ワイズという共通の恐怖(敵)を通して、お互いの悩みや思いを共有し、友情を深めていく。そして、友情のパワーでペニー・ワイズとの闘いに打ち勝つ。ここまでは、やや弱い感じがするものの、7人の悩みや思いは、ある程度上手に影像化されていたように思う。まずまずの出来だった。

 ただ、問題は後半である。人は自らの幼年期を再体験することで、ようやく幼年期の影響から脱却でき、悔いの無い大人へと成長できるという。通常、その再体験は自分の子供を育てることでもたらされるのだが、子供のいない7人は幼少期の影響から未だに抜け出せずにいる。大人になった7人は、仕事であったり、恋愛であったり、家庭であったり、子供の頃と悩みの種は変わるものの、悩みの重さは変わっておらず、その悩みの多くは幼少期の体験に端を発している。その7人に、幼少期の再体験をさせてくれるのが、ペニー・ワイズである。(死んだ1人を除いて)再び結集した彼らがペニー・ワイズを倒すには、子供の頃の友情と無垢のパワーを取り戻せるかが鍵である。だが、大人になった彼らは、世間体やプライド、家族など守るべきものが増えてしまった分、子供の頃ほど簡単に自分を曝け出すことができない。さらに彼らは、子供の頃の感性や思いが色褪せ、物分かりの良い普通の大人になってしまったことを後悔している。

 とうように、後半は「真の大人への脱皮」がテーマとなって人間ドラマが繰り広げられる。私は、大人ならではの悩みや葛藤と少年期へのノスタルジー、そして友情の崩壊と再構築を、どう映像化しているかに興味があったのだが、残念ながら、通り一遍に話の筋を追っただけで終わってしまい、それ以上のものを伝えてくれなかった。もう少し人間を上手に描けていれば、もっと違った味わいのある映画になった気がするのだが、どうやら後半は完全にB級ホラー路線に乗ってしまったようだ(ホラーとしても中途半端だったが)。

 トータルで1200pにも及ぶ大作を3時間という枠の中で映像化できただけでも賞賛すべきかもしれないが、後半になって、”The most important things”が完全に消え去ってしまった印象が拭えなかったのが、非常に残念だった。

 ロブ・ライナーにリメイクしてもらいたいと思うのは、私だけだろうか?

(評価:★3)

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