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[コメント] フェノミナ(1984/伊)

光と闇・生と死・善と悪・美と醜…相反する要素を組み合わせて、美しくもグロテスクな映像を作り上げたアルジェントに脱帽。「超常現象」というタイトルには二つの意味があって―

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







一つは勿論、ヒロインの虫と交信する能力のことなのだが、もう一つは、「生命」という不可思議な現象のことでもある。明滅する蛍のように儚く、蠢く蛆のように力に満ち、群集する羽虫のように形を持たない、「生命」という現象以上に超常的なものがこの世にあるだろうか。そして、思春期ほど、生命がその爆発的な発生のダイナミズムを顕現する時期はない。劇中の殺人も、その神秘への彼なりの(彼は15才だ)探求であったに違いないのだ。

この映画には無数の生命の放つ妖しい光が満ちている。虫たちの声にならないざわめきがそこここから聞えてくる。人の生命も虫ケラのそれと何も変わるところがない。永続するものは何もなく、今盛りを迎えているものも忽ちにして滅びる。金髪の美少女は蛆の這い回る頭蓋骨と化し、名門寄宿舎学校は恐怖の館となる。しかし儚いからこそ生は美しい。アルジェントの意図するものは生命の神秘を賛美することである。その原初的な脈動を、奇怪なまでの豊穣を、輝かしい混沌を讃えることにある。死もまたこの生命という坩堝の見せる様態の一つでしかない。そこではすべてが輪廻し、変転しているのだ。

この映画はつまりは『地獄草子』なのだ。おどろおどろしいようできらびやか。そこで描かれているものは、刻一刻と形を変えてゆくこの世界の、異常な美しさなのだ。

(評価:★5)

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