[コメント] 帝銀事件 死刑囚(1964/日)
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後に松本清張の小説「悪魔の飽食」によってようやく実態が知られるようになった七三一部隊(石井部隊)。これは日本陸軍の汚点とされる部隊で、細菌戦争研究のための特別部隊で、徴発した現地民を「マルタ」と称して人体実験に使ったという、戦争の暗部を象徴するような部隊だった。
それで戦後この部隊がどうなったかというと、実は幹部の大部分は戦犯になることはなかった。この非人道的な実験の結果は非常に貴重なものであり、研究結果をアメリカに譲渡することで、誰が関わったのかは闇から闇へと葬り去られてしまった(噂だから信憑性はないものの、戦後の高名な医師の中にはここに関わった人物が結構いたとも言われてる)。ヴェトナム戦争で使われた生体兵器はここでの研究の成果がかなり用いられていたとも言われてる。
そんな経緯もあって、GHQとしては、この事件は大きなダメージを追うことになりかねず、この事件に七三一部隊の関与が明らかになった時、GHQは特権を用いて資料の提供を拒否したのみならず、この件での七三一部隊への追求を一切止めるように通告してしまった。
結果として状況証拠のみで犯人を捜さざるを得なくなってしまい、平沢という人物の確保しかできなかった。ここで逮捕された平沢は結局刑務所を出されることなく、一生を塀の中で過ごすこととなったが、どうやら冤罪であった可能性が高い。戦後のGHQ支配体制の中で起こったこととはいえ、日本の司法歴史の汚点の一つとされている。
そんな起訴中の事件を真っ正面から描いたのがこの作品。本作でも本当に犯人は誰なのかという点については一切言及していないが、完璧に弱者をいたぶる権力者の構図が描かれ、観ていてかなりきつい内容になってる。
しかし一方ではこの作品はもう一つ問題を提示しているようでもある。
この事件がここまで大きくなったのは、事件そのものの持つ社会的な問題性のみならず、これに際して偏った報道を繰り返す報道陣の問題もあることを指摘しているかのよう。敢えて本作は報道陣の方に中心を持ってきて、混乱に陥る新聞社の様子が描かれていた事からもそれはうかがえる。
警察から漏れ聞いた情報をすぐさま国民に垂れ流すことによって無責任に事件を拡大し、冤罪かもしれない人間を勝手に犯人に仕立て上げるのは、警察の問題だけでなく、報道陣の問題もある。
それらの問題も全てひっくるめてたたきつけようとしたのが本作なのだろう。よほどの自信があってのことか。
一方淡々とそれらを描くのは良いが、演出面はちょっと弱い感じで、特に中盤かなり中だるみしてしまい、かなり退屈な感じになってしまったのは残念なところ。ラストも中途半端な感じだが、当時結審してなかった裁判だから、これで仕方なかったのかな?
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