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[コメント] エネミー・ライン(2001/米)

PVやCF業界から流れてきた人が戦争アクションムービーを撮るとこうなるのか。それにしても“言い訳付感想”の多いことよ。
BRAVO30000W!

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映像の趣味は『ピッチ・ブラック』で表現済。これを戦争モノに持ってくるとこうなるのか。『プライベート・ライアン』は戦争の“湿ってるけど乾いている”みたいな映像をデジタル処理でダラダラと見せていたのが印象的だったが、こちらはプロモーション・ビデオやコマーシャル・フィルムに見られるようなカメラワークと編集ぶりを堪能できた。という意味では面白かった。

また、昨今の映画作品に見られる“ビデオやDVDで見てもイケるよ”的ショットもふんだんに見られた。だから私はテレビモニターで見たのだが迫力は損なっていなかったと思う。そりゃ映画館の迫力に比べれば見劣りはするが、別に映画館で観なくてもそこそこ迫力は体感できる。そこに今風の映画製作姿勢を伺うことができる。良い悪いは別にして。でも、ビデオレンタルでも良く見る私にとってはありがたいことではある。一方で、この作品を「映画」と呼びたがらない人も多いだろうな、と思ってみたり。

大戦後しばらくは反戦ムードが続いていたようだが、段々と戦争を知らない子供達が増えてくると、兵器や武器がかっこよく見えてきて、戦争はともかく兵器に憧れたりする人が増えてくる。更に時代が進むと別の国で紛争やら戦争やらを報道する情報量も増え、平和国日本は「頭で理解する反戦」感情が一般化してくることになり、あからさまに戦争映画や兵器映画などを賞賛することができず、SFやらアニメやらリアリティのないもので代用せざるをえない今日この頃である。

でもこの監督は戦争とかなんとかは関係なく映像でアクティブに見せることを上位に置いているのか、中身がなんであれ、むしろ中身を追わない(もしくは気にしない)ほど楽しめる作りになっている。で、楽しんでいる自分に気付いて「いかんいかん。何て自分は不謹慎なんだ」とは思うものの、やっぱり楽しいものは楽しいんだからと「楽しい」感想を書き、「でも戦争はいけないと思うんだ」というような言い訳が付け加えられることになる。複雑な世の中になったものだ。

ステレオタイプのキャラクターは年々リアリティのなさから飽きられてきているように見えるが、実は物語やキャラクターは単純なほど面白くなりやすく、複雑なキャラクター心理や人間関係などは、それらを理解して「私は人間ってものを知っているんだよ」と潜在的にも顕在的にも優越感に浸りたい人向けのものであって、これも映画を素直に楽しませない一つの要因になっているように思えて仕方がない。

勧善懲悪を上手く作ればスカッとするのだ。ただ時代が単純に勧善懲悪の構造をもたせにくいので、製作者側は苦労し、リアリティ追求派や人間分析派などの格好の餌食になってしまう。更にはアメリカの辛辣且つ無責任な批評番組などが輸入され、気付けば日本独自に辛辣な批評を掲載するメディアが増えたモノだから、単純な勧善懲悪モノは作りづらく、それを作るのであれば色んな言い訳やらギミックやらを持ってこないと作れない仕組みになってしまっている。

個人的には、操縦士はもう少し頑張って残っていた方がバリエーションが凝れて、もう少し良い評判が増えたように思うが、逆を言えば単独であそこまで逃げ切らせたのも面白かったので、結果的に○。 1点足りないのは、魅力的なヒロインがいると、もっと嘘っぽくなって良かったかな、と。そうすれば口うるさい連中もクソミソに貶す気にもなれなかったろうに。

最後のシーンは、得てして脚本や演出にこだわりがあって、でも途中で予算が尽きちゃって、バッサリやるかやらないか判断に迷って、じゃあテロップ付の説明シーンでまとめましょう、ということになったように見える。ヘリで回収シーンで終わったら潔いと思うが、製作者側としては結構大英断に近いことでもあるし(ラッシュ上映時に「で、それからどうなるのだ」という追求が激しかったりすることもあるらしい)、あれはあれで気にしなければ良いことではないかと。

と、極端に言い訳の多い感想を書いてみるとこうなるのだな。

※補足1 ジョン・ムーア監督はボスニアで戦争カメラマンをしていた経験を持っているそうで。そう聞くと、ひょっとしたらあからさまなアンチボスニア兵士みたいなものを作って、カメラマン時代に負った無念みたいなものを晴らそうとしたのかいな、などと勘ぐってみたくなる。

※補足2 DVD版では映像特典に未公開シーンがあるようだが、そこではレイガートの解任のシーンがあるようだ。尺合わせかクレームか気分か。

(評価:★4)

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