この映画は途中までは結構良かったと思う。化粧というものを通して女性の姿や人間の姿など見えてくるものも多かった。特に椎名桔平演じる化粧師、小三馬が柴咲コウ演じる小夜に対して化粧をした際、"化粧は所詮上辺を整えるもの。心に化粧するのはあなた自身です。"と言った台詞が自分には非常に印象的だ。また、ヒロインを演じた池脇千鶴の健気な感じも親しみが持てるし、彼女自身も演技面で光ってたと思う。それと、全体的に化粧をするシーンが非常に映えて撮られていた。静かで地味な雰囲気を出しつつ、化粧の筆の先端にしっかり集中力を向けられるように演出されてた。とても美しいシーンになってた。

　だが、後半で一気に良さが冷めてしまった。小三馬が耳が聞こえないと分かったからだ。以前のシーンを振り返ってみると、それらしい素振りは無かったとは言えない気がするが、問題はそこではない。この物語の主題を考えた上で、主人公の化粧師が耳が聞こえない必要が果たしてあったのだろうか？それが疑問である。どうしても物語に欠かせない材料ではないと思う。この事実を明かして以降、ラストまでピンと来なかった。素直に化粧において女性の感情変化を描いた人間ドラマに仕上げる上で、聞こえないということは邪魔だった気がする。