[コメント] WXIII 機動警察パトレイバー(2002/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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パトレイバーというと、押井守の作品であり、彼が手がけたものじゃない作品を観ようと言う気はあまり起こらなかった。現に私が住んでいた街では上映することなく、このためにわざわざ遠出する気力もなかったし、どうせ押井守じゃないなら。と言う気持ちが強かった(とり・みきファンとして何故か?と言われると辛いが)。
更にビデオになっても放っておき、衛星放送での放映でやっと観た。正直どうせたいしたこと無かろうという思いだったのだが…
しまったな。やっぱり劇場で観ておくべきだったか?
確かに押井守はこの作品にタッチはしていない。だけど、雰囲気に関してはしっかりそれを意識していたし、やや古い感のある救いようのないドラマも、特車2課から離れたお陰で違和感なく作る事が出来たんじゃないかな。何より劇中に頻発される専門用語の選定がスマートだ。私程度の知識量で分かる程度の、しかもちゃんと専門的な用語を選んで様々にちりばめて使われているので、耳の奥に残ったあの台詞は一体どういう意味だろう?とか考える事が出来たし、それがしっかりストーリーに関わっているのがなかなかに泣かせる。
パトレイバーシリーズ(引いては押井作品全般に言える事だけど)を通して私が一番評価したいのはカメラ・ワークの巧みさ。1作目の『劇場版パトレイバー』では魚眼を使ったやや特殊な使い方もしているが、後半になるとやや俯瞰気味にカメラ位置が移動し、零式との決闘において縦横にカメラを移動させて(ついでにレンズまで変化させて)戦いを演出していた。2作目の『劇場版パトレイバー2』においては地上から空へ、空から地上へ、と言うカメラ位置の移動を上手く用い、その演出をしっかり使っていた。いずれにせよ、セルアニメでありながら、カメラの位置というのが画面を通して伝わって来る素晴らしい演出がされていた(アニメは本来どのような描き方をしても良いのだから、カメラ位置の特定など無くても構わない。だけど、結果的にそれが同じような撮り方しか出来なくしているのだし、逆にそれを意識させる事で格段に演出の巧さが印象づけられる)。
それが本作でもしっかり継承されていた。セルアニメも手作業からディジタルへと移り、今までは出来なかったような演出も可能だが、カメラが流れるように人の間を縫って移動し、そのままズームまでする(『攻殻機動隊』のラストで使われた演出方法でもある)。技術的にかなり難しい演出をさりげなくやってしまう辺りが感涙もの。押井氏がやって来た事をきちんと学んできた結果だ。
ただ、アニメではセル枚数の軽減のため当たり前のように使われる、そして押井作品では無理してやらなかった(と思う)横振りのカメラ・ワークが多用されていたのがちょっと残念だったが…
ストーリーはゆうきまさみの原作漫画を元にしているとは言え、完全に特車2課からは離れてしまい、秦と冴子の間の物語へと変わっている。だが、逆にそれが良かったんじゃないか?押井氏以外に特車2課を必要以上に劇場で動かされたら、逆に反発を食うだろうし(多分私が急先鋒になるだろう。少なくとも押井氏の分身とも言える後藤隊長は押井氏以外が演出すると全く駄目になる)。そのお陰でちゃんと悲劇として作る事が出来た。特に大学で小児癌の事を喋る際の冴子のうっとりした表情と湿っぽい声の演出は、まさしく私のツボだ。内に狂気を隠し、冷静に振る舞っているが、何かの拍子に不意に心の内面が表情に現れるって演出が、ぞくっとする。それを見せてくれただけで評価を上げてしまう(少なくとも押井氏にこの演出だけは出来ないと思うし)。
モンスターデザインは怪獣描写では定評のある末弥純。なかなか気持ち悪く仕上がっていてこれも良い。モンスターをひたすら暗闇の中で蠢かせていたのも良し。モンスターは闇の存在であるからこそ、良いんだよ。グロテスクな演出はアニメではあれが限界かな?
…と、まあ概ねにおいては本作は褒めちぎる事ができるのだが、それもパトレイバーという素材を使って…否、押井守という存在に負うところが大きすぎた。映画を良くしようと言う努力が、押井的演出を多用する結果になってしまい、故に“傑作”とは呼べないものとなってしまった。もはや呪縛だな。
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