[コメント] es [エス](2001/独)
途中最も印象深いセリフが「ナチスだ!」というところで、ここ一箇所だけで使われていますね。このセリフが実は映画全体を覆っているんですね。これはナチスです。権力を持たされる者とそれに弾圧される者、両者の関係は互いに平行して絶対に結ばれません。そして最後の結末。この終盤は予測できますが、中盤で放たれる「ナチス」というセリフだけが印象的でした。
権力と弾圧が実験でありながらここまでエスカレートする恐ろしさ。これは一部実話なんですね。1971年に実際行われた実験で、その実験は途中で中断されたそうです。それは現実の判断なんでしょうね。しかし、もしその実験が続けられていたら・・・、これがこの映画を触発しているんですね。着装は面白い。
思うのは、時代が複雑化して、中東などで戦争が起こっていて、アメリカが国連とも距離をおいて独断で戦争化傾向にある時代に、同じ戦争を50年以上も前に経験したドイツ、しかもあのヒットラー率いるナチスを配したドイツ、国が二分する悲劇を経験したドイツという国で、実際にこういう実験が行われ、そしてそれを脚色する形式でこのような映画が映像化されるという事実を、この映画を見たドイツの人々はどのような思いだったのでしょうか。
日本人もこの「ナチス」という強いセリフを他山の石と考えることなどできないでしょう。日本だってドイツや朝鮮半島のように二分する危機が存在したのです。それを思うと、この映画が必ずしも実験的であるとか、稚拙であるとかということは言えないのではないか?また、これを単なるアバンギャルドでエネルギッシュな映画のように受け取ることも些か抵抗があるようにも思えるんですね。
人間には全てにおいてこの映画に出てくる看守となり、囚人にもなる。どの立場におかれても同じようなことが起こりうるということを示唆して、現代社会への批判を重ねているのではないでしょうか。
映画としては未完成で必ずしも芸術性が高いものでもない。また理屈の意味でも矛盾がある。しかし大変勢いのあるすさまじい作りで、全編を貫く意味もない緊張感が不思議を見る者を硬直させ映像から目をそむけさせない魅力がありました。
ラストシーンは一見意味を持たないようにも思えますが、海岸で二人並んでいるシーンにとても日本的なものも感じました。禅のようなイメージでしょうか。心穏やかに死を迎えるとか・・・。人間生きているうちはなかなか穏やかでいられる機会が少ないですね。不安と苦悩がよぎります。新聞やニュースを見ても穏やかでいられる機会はほとんどない。そんな時代に置かれたこの映画のラストとしては、意味のあるものになっているような気もします。
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