[コメント] キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン(2002/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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終盤に至ると、題名の「Catch Me」は「捕まえてくれ」という懇願なのだと理解できる。それ以前に既に、フランクは、カールにクリスマスの電話をした際に自分の居場所を教えていたし、カールが最後に言い放った「お前は寂しいんだろう?」という指摘も図星であることが見てとれる。
スピルバーグ作品ということで、いつもの「射し込む強烈な光」の使い所をつい探してしまうのだが、今回は、フランクが母親の不倫現場に遭遇してしまう場面で、素知らぬ態でキッチンに立つ母親の顔が、窓から射し込む強烈な光線で半ば隠されている。あとは、フランクが映画館でボンド映画を観る場面での、映写機の光くらいか。
自分が新聞に「空のジェームズ・ボンド」と書かれたのを知ったフランクは、映画館でボンド映画を観た後、スーツも車もボンドと同じモノを用意する。また、詐欺行為に於ける、医者としての振る舞いも、弁護士としてのそれも、テレビドラマから学んでいる。フランクは、見られる存在、見られることを欲する存在である以前に、見る立場の人間なのだ。
転校してきた学校で、制服の為にからかわれるフランク。これは、制服のある学校からの転落であると同時に、その見た目に対する「臨時教師か?」というからかいの言葉を逆手にとっての演技が通用してしまうという経験が決定的。つまり、そこでの自分の存在が否定的に扱われるということと、その状況から逃れ、手っ取り早く何者かとして通用する為には、外見から他人が抱くイメージを利用するのが最も効果的であるということ。
小切手の偽造という犯行について一つ決定的だと思えるのは、フランクの両親が離婚する場面。ここで彼は、突然の事態に動揺しているさ中にも関らず、両親の内どちらかを保護者として択び、その名を書類に書くようにと求められる。弁護士は「試験じゃないから、緊張することはない」と告げるが、両親のどちらかを切るというのは、このフランクの性格からすれば、試験どころの怖ろしさではないだろう。その後、家を出たフランクは、父と同じ名の書かれた自分の小切手が換金できないという事実にまで直面する訳で、紙に書かれた名というものは、常に否定的なものとして経験されている。
家を出て詐欺師になったフランクは、恋仲になった看護婦ブレンダの父に正体を見破られた時、それを知られた上でのその娘との結婚という形で、「息子」の立場に戻りかけていた。カールが執拗に訊ねた末に遂に聞きだした、司法試験に合格した方法も、実は二週間勉強して本当に合格したのであり、つまりフランクは、父親役の人間が背中を押しさえすれば、その能力を真っ当な形で発揮し得る少年だった訳だ。そのことが明かされるのは、最後の最後になってからであり、この、最初のボタンのかけ違いが全ての詐欺と逃走劇の発端だったことが印象づけられる。だがブレンダの家で、家族揃って何やらいつものテレビ番組で盛り上がっている一家のテンションについていけないフランク。
父の独得の性格に影響されて、空飛ぶ詐欺師などという、文字通り地に足のつかない生活を送ることになったフランクが、その父の死を、連行される飛行機の中で初めて聞かされるというのも皮肉な話。だが、それを告げたカールがフランクの父親役になるという意味では、父性との和解の始まりでもあったのだ。
次作の『ターミナル』でもそうなのだが、今回はガラスが画的な演出の大きな要素となっている。フランクが、初めて自分の正体と本名を明かした恋人ブレンダが待つ空港では、そこに停められた車の窓ガラスの向こうにカールの帽子を見つけたフランクは、ブレンダと合流することなく逃走せざるを得なくなる。警察に捕まる直前、母親の家を訪ねたフランクが、窓ガラス越しに覗きこむ、幸福な家庭のクリスマス。カールが、受刑者となったフランクに面会に来る場面でも、ガラス窓の手前にあの帽子がまず置かれてからフランクが席に着く。
フランクが、同僚としてカールの側に迎え入れられたことも、扉のガラスで仕切られたカールのオフィスの内側に招き入れられるという画で表わされる。休日を前にしたカールが娘のことに気を取られてフランクの相手をしないと、フランクはまた、ショーウインドーのガラスの向こうにパイロットの制服を見つけて、元の世界に戻ろうとする。犯罪者になれば、追いかけてくる人間が居る。この心理は、パイロットの制服を着ることで、スチュワーデスに憧れる娘たちを引き連れていた時の心情と同じものだろう。
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