[コメント] 燈台(1959/日)
舞台になる旅館の窓から、柳川慶子が双眼鏡で外を見る、その見た目カット。ゴルフ場が見える。左へパンニングして回想に入る。同じ旅館の、進駐軍による接収解除直後に、かつて家族で訪れた際の話がメインプロット。家族というのは柳川と、その父の河津清三郎、兄で復員者の久保明、そして、戦争中に河津と結婚した後妻(兄妹の継母)である津島恵子の四人だ。
夜、一杯飲んで眠ってしまった河津を夫婦の部屋に残し、三人が兄妹の部屋で団欒するのだが、久保の経済史の教科書に、津島の下の名前「いさ子」という書き込みが複数ある、と分かる。津島は激しく動揺するが、柳川が、友人の部屋に呼ばれて、久保と津島の二人きりになってから、さらに回想(回想中回想)が2つ入る。これがまたスリリングなのだ。久保の復員前から、津島は写真を見て久保を意識していたことが分かるのだ。
柳川が部屋に戻って来て、河津も目が覚めて、部屋に4人そろう。こゝからが、クライマックス。久保は思いつめて、河津に本心(継母への恋慕)を告げようとする(教科書の書き込みも見せようとする)。しかし、柳川が必死でごまかす。苦し紛れで父娘いっしょに「ロンドンデリーの歌」だの「銀座カンカン娘」を唄い踊るのだが、この場面の人物の動かし方、切り取り方、あるいは視線の演出は、見事の一言だ。話が落ち着いて、河津と津島が引き上げる場面の、暗い廊下での後ろ姿カットも素晴らしい。この時期の鈴木英夫の演出力は、成瀬と甲乙つけ難いレベルではないだろうか。種類は全く異なる映画として、一方では群像劇の傑作『その場所に女ありて』があり、他方、小品(上映時間60分強)の室内劇としての本作も、鈴木英夫の代表作と云うべきだと思う。
#備忘
・柳川が、久保の復員時に持って帰って来た双眼鏡を戦犯双眼鏡と呼ぶ。
・旅館の女中は文野朋子。とても綺麗な敬語を喋る。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。