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[コメント] サラマンダー(2002/英=アイルランド=米)

ファンタジー映画に求められるリアリズム。ファンタジー映画に求められる風刺性。「規模」の大きさばかりが求められがちな21世紀型ファンタジーの良心。
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







サラマンダー』という邦題は、TVゲームから得た情報でファンタジーの世界を知り尽くした気になった浅いファンタジーファンの目を引くには多少役立ったかも知れないが、本編で一環して「ドラゴン」と呼ばれている通り、あれは「サラマンダー」ではない。又、ネットで「あれは『ラドン』のパクリだ!」なんていうテキストがあったが、残念ながら全然違います。むしろコッチのが1200年は早い。

本作の舞台ともなっている英国はドラゴン伝説発祥の地の一つである。ギリシア神話に於けるドラゴンの多くは蛇を原型(ヒュドラ、ピュートン、ラドン)としているが、ヨーロッパ産ドラゴンはトカゲを原型としている。英国語で最初に書かれた叙事詩「ベオウルフ」(紀元700年頃)で既に翼を持ち炎を吐くドラゴンが登場している。ヨーロッパで翼を持ったドラゴンはリンドブルム、英国ではワイヴァーンと呼ばれ王家や貴族の紋章などに人気が高かった。また、翼があり二本足のものをリンドブルム、或いはワイヴァーン、翼のない4本足のものをリンドブレイク、或いはドレイク、ファイアードレイク、翼があって足がないものをワイアームなどと分類もされていたようであるが英国以外では一般的に「ドラゴン」で総称されていた。

ドラゴンは流星や稲妻に対する農民たちの恐怖や畏敬から生まれた。熱い雲と冷たい雲の衝突から生まれたドラゴンが、自由に空を飛び回り、口から火を吹くという、今考えると荒唐無稽な発想が、科学知識乏しい当時の人々にどのように受け入れていくことになったか想像するのはとても愉しい。ロマンがある。神話伝承の面白さはこういうところにある。自然現象に対する永年の恐怖が育む想像力・創造力。たった一人の人間が二、三ヶ年頭を絞ったくらいで生み出せるキャラクターなどとはワケが違う。一つの民族に伝わる神話を材に小説や物語の千や2千、キャラクターの100や200を生み出すことはそれ程難しいことではない。

この映画には、驚くべきことなのかどうか知らないが、「ドラゴン・コンサルタント」という職制がクレジットされていて、それだけに行き届いたドラゴン造型をみせる。この映画に登場するドラゴンは正しく伝説に伝わる「リンドブルム」そのものであった。中学以来眠っていた俺のファンタジー熱を呼び覚ます程のリアリティがあのドラゴンにはあった。

それを邦題「サラマンダー」とはいい加減なものである。いや怒ってはいないが。だって「サラマンダー」って「山椒魚」のことだからね。「火トカゲ」なんて訳されることもあるけど少なくとも飛龍ではけっしてない。(両生類は表皮がヌメヌメしていて火に投げ入れても暫くは平気でいるから「火の中にも棲める」と考えられた。)

映画の世界観に関してはハッキリ云って新鮮味ゼロ。であった。終末物の定番という気がする。

物語はモロなる政治風刺である。現代の米国と英国の関係が露骨に組み込まれている。マコノヒーとベールの確執にどう決着をつけてくれるのかと、愉しみにしながら鑑賞していたのだが、結末は事の他真摯であった。これは好戦米国人をして反戦英国人に「お前が正しかった」と云わしめたことを指しているのではない。ドラゴンという無差別テロリストと人類の共存などあり得るはずがなく、ドラゴン殺しは人類にとって絶対に果たされなければならない宿命であるのだから、中途半端な反戦論ではクソ程の説得力も持ち得ないことを作者は当然良く判っていた。

ベール、マコノヒー、イザベラの三人は物語の「過去」に行われたとされる人類史上最も大きな過失、即ち「核による殲滅作戦」を真っ向から否定して、「一匹のオス」つまり「テロリスト達の指導者」を探り当てて「少数精鋭を以って必殺する」ことを選んだのである。「雄=指導者」を必殺すれば自然と組織は瓦解するという判断予測の元に。これを真摯といわずに何を真摯と呼ぼう。理想論だと笑う人もあるかも知れないが、日和見中国人が『ヒーロー』で述べた覇権主義なんかよりは数段「映画的」なメッセージである。

映像については、CG嫌いの俺であるが、テーマがテーマなだけに了承せざるを得ない。というか、スカイダイビングのシーンには驚愕させられた。CG云々を抜きにして構図、カッティングにアクション監督ロブ・ボーマンのセンスと気概を感じた。逆に雄ドラゴンが城を焼き尽くしマコノヒーの横を通過する場面では、遠近感もヘッタクレもなくガックリ。まぁそれも直後の、ジェラード・バトラーがトキ(北斗の拳)になる扉のシーンの感激で帳消しになるのだが。

構成の不備や細部にアラも目立つがシーン毎の魅力=”映画華”に溢るる好篇であったと云える。戦勝祝いで恥かしげに流れるジミヘン「ファイア」などの選曲もベタだが面白かった。

(評価:★4)

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