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[コメント] NARC(2002/米=カナダ)

プロットの展開よりも行間でキャラクターたちが織りなす枝葉にこそ震えるものがあった。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 人間としての道徳と警官としての誇りを持つが故に現実に傷つき続けたオーク。彼を襲った、唯一の頼みとしてきた妻が癌で逝ってしまったというさらに残酷な現実。そのせいで彼は妻を虐待する者を執拗に憎み、父親に体を売らされていた娘の矯正に異常な執着を見せた。彼女を幸せな夫人に仕立て上げることこそが、彼にとって過酷な現実に見出せる唯一の希望だったのだ。だが、現実はさらに凄惨で、親友の裏切り、裏切りというよりは堕落、堕落というよりは弱さが彼のささやかな理想をズタズタに切り裂く。すると、彼は事実を隠蔽し、でっち上げようとする。それは壊れてしまった理想を継ぎ接ぎ、鍍金で覆うような空しい作業でしかなかったにもかかわらず。欲を言えば、この痛々しく哀しいモチーフをもう少しきちんと見せて欲しかった。

 或いは、クライマックスのテリスをもう少し丁寧に描いて欲しかった。テリスにもテリスのカルベスとオークに対する想いがあったではないか。彼はカルベスの境遇に対するシンパシーから、二度と戻らぬと誓った現場へ戻ったのだ。家族を残して逝ったカルベスと親友を殺されたオークの無念を想い、オークの境遇にも感じ入り、また彼の妻に先立たれてなおも職務に邁進する信念を信じてつっ走ったのだ。だが、オークによる事実の隠蔽を知ったとき、テリスもまた大いに裏切られた。その時彼に宿ったはずのものは、驚きと怖れ以上に、オークに対する怒りとカルベスに対する絶望だったはずだ。無論その後でテリスはオークに真実を確かめることになるのだが、その前、倉庫の外で二人がぶつかり合った際、テリスにはオークに自分の想いをぶつけて欲しかった。

(評価:★4)

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