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[コメント] 猫と鰹節 ある詐話師の物語(1961/日)

アバンタイトルは講演会の演台。その前で、大臣のように正装をした老けメイクの森繁久彌が、我々観客に向かって演説する。若かりし日の自分の行いを今から見せると云う。大阪駅の大俯瞰。
ゑぎ

 駅の階段を降りて来る乗客たち。ナレーションの森繁は「顔を見て、いくらぐらい持っているか、いくら儲けたいか、分からないとダメだ」と云う。人々の中に西村晃。森繁が火を借りる。こゝから儲け話を出し、上手く付いて来させるのだ。森繁の仲間には、三木のり平森川信千葉信男ミッキー・カーチスがいる。カーチスはタクシー運転手だ。彼らは、詐話師。西村から30万円巻き上げるが、その手口の詳細は割愛される。後で見せる、と云う。

 彼らのアジトは、三木の家。賀原夏子がカミさん。西村を騙した金が入ったので、森川は今里で遊ぶと云うが、カーチスが、もっといいカモがいると森繁に話を持ちかける。それが、バーのママ−草笛光子。カーチスの回想で、タクシーの中の松本染升と草笛の会話シーンになる。宗右衛門町の店を買いたいという話。400万円貯めていると草笛。次に草笛のバーのシーンが繋がれ、詐話師の手管の詳細が披露される。

 森繁が下着会社の営業部長、森川はその部下、社長が千葉、取引先に三木、という布陣で草笛を騙しにかかるのだが、社長が千葉、というのが違和感があって可笑しい。その核心は、「お座敷競輪」と云ったと思うが、小さな箱の中に、数字が書かれたカードを入れ、2人で引いたカードの数字の大きさを競うというものだ。子のカードより親は大きな数字を出さないと、5倍返し。まずは、社長の千葉が三木に大負けするのを見せておくのだが、千葉の後ろで森繁が三木に手札を教えるカラクリがあり、確実に勝てると草笛に思わせる。そして草笛に、貯金の200万円を一発勝負でつぎ込ませる。実は、私には、この賭博自体が面白みのないものだと感じられてしまったが、草笛が乗ってきて目の色が変わる様子をコマ落としで見せる演出は面白いと思った。負けた草笛の消沈ぶりと、それにつけ込む森繁の場面はさらにいい。

 さて、その後、森繁は、貧相なアパートへ。こゝには乙羽信子がいる。芸者か。森繁の妻なのか?と思ったが、そうでもないらしい。しかし、本作の乙羽も可愛い。窓からポチに、森繁のお土産の外郎(ういろう)を食べさせたり、布団を敷いて、浮気していないか確かめる(量?)と云う場面をテンポよく繋ぐ。また、このアパートには、引退した詐話師の伴淳三郎と若い妻の市原悦子も住んでいるのだが、この2人がこの後、全然活躍しない作劇なのは、勿体ないと思った。

 そして後半は、数か月後、森繁が南紀白浜で、偶然草笛に再会し、千葉が難波の鞄屋で西村に見止められる、という二つのピンチの場面から、関西一円の詐話師を集めた大がかりな作戦と、千葉の娘で有馬温泉のストリップ嬢−団令子が絡んだプロットになっていくのだが、私も詳細は割愛しよう。宴会場(太閤閣)の大広間を沢山の屏風で仕切り、お座敷競輪等の賭場を開く場面の真俯瞰ショットは、とても見応えのある良い造型。あと、団の喋り方、甘えた感じの関西弁がとてもいいと思った(この人は元々京都出身)。

 ラストはシネスコ画面いっぱいに映しこんだ、でっかい一万円札の前での森繁のカメラ目線スピーチとなる。こゝの寄りのショットは、かなりの望遠レンズだろう、黒澤組っぽい画面だ。ズームで引くと、草笛も登場し、ツーショットのストップモーション。このエピローグは完全にファンタジーだ。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・騙された西村が泣きつく警官は、柳谷寛

・草笛を騙すシーンの旅館の女中は、宮田芳子。森川や千葉に西瓜を出す。

・伴淳は、天王寺公園の自転車の(駐輪場の)見張りの仕事をしている。

・白浜へは、化粧品会社の販売店慰安旅行に紛れ込んで行く。社長はトニー谷。白浜のシーンで草笛が一緒にいる男は、丘寵児

・西村に会った千葉は、道頓堀から、なぜか中之島を経由して新世界へ逃げる。千葉の内縁の妻は、春江ふかみ

・三木の浮気相手(?)の水商売の女は、中島そのみ

・ストリップ小屋の団令子を脅すチンピラは、小池朝雄

(評価:★3)

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