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[コメント] ヴァリエテ(1925/独)

ゴリゴリの心理サスペンスなのな。昔の人が映画という娯楽に熱狂したのもわかるってもんだ。
G31

 『嘆きの天使』で堅物の学校教師を演じて印象的だったエミール・ヤニングスが出演している、という程度の予備知識しか持たずに見た(シネスケの平均点も高かったし)のだが、どうしてどうして。すでにこの時代に映像手段のみで(といっても無声時代だから他に手段ないが)人間の心理推移をギリギリと描き出す重厚な心理ドラマが存在したとは。昔の人が映画という娯楽に熱狂したのもよくわかる、ってなもんだ。

 確かに今から見ると、演技の上での表情や仕草の作り方、また演出としてそれらを強調するために物語の流れを止めてしまうことなどが、大袈裟に見えたりクドすぎに感じてしまうときがある。だが語られる物語と語る技巧の間にしっくり来る感じがあって、さほど気にならないのだ。巧いなあ、と思うのは、例えばこんな描写。浮気相手を見送って自室に戻ってくると、女の旦那が部屋にいる。ドキリとするところだろうが、努めて陽気を保ち、やあやあ訪ねてきてくれてたのか、いつでも歓迎だ、僕も飲み足りなさを感じていたところだ、どうだい軽く一杯(←台詞は想像だが)、てな感じで、陽気さに誘い込んで相手の気を逸らそうとする。グラスに酒を注いで相手の前に置き、自分の分も注いで乾杯!てな感じで一息に飲み干し、思わず「ああうまい。酒のない人生のなんと空しいことか」てな台詞(←これも想像)をブツブツ言いながら、ふと相手のグラスを見ると、全然減ってなくてヒヤリとする。みたいなとこだよね。気の持たせ方、また気の逸らし方がとてもうまい。

 エミール・ヤニングスって、そこらのマフィアのドンも真っ青というくらいの「おっかない顔」の出来る人だけど(また実に怖い)、家庭的な小さな幸せに包まれているときの笑顔なんかも似合う、とてもチャーミングな役者さんですね。おみそれしました(でも空中ブランコ乗りにしては太りすぎと思う。縄梯子伝って降りてきたときにはびっくりしたよ。「お前かよ!」って・・・) 。

80/100(07/12/09見)

(評価:★4)

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