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[コメント] イブラヒムおじさんとコーランの花たち(2003/仏)

映画のマジックみたいなものを感じさせる場面がある。映画のマジックって、何なんでしょうね。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 『あなただけ今晩は』の“カサノバ通り”を彷彿とさせるパリの下町界隈が舞台(カサノバ通りも“パリの下町”を模したオールセットだと聞くが)。

 いいシーンがある。この“ブルー通り”に映画クルーがやってくる。界隈の皆々総出で撮影風景とスター女優をご見物。このスター女優(なんとイザベル・アジャーニだ)が、水を求めてイブラヒムの店に入ってきた。値段を伝えると、「このあたりのお水は高いのね」と言われてしまうが、すかさず「手に入らない貴重なものだからですよ。映画スターと同じです」と返し、女優をして「メルシー」と言わしめる。主人公モモから「ふっかけたね」みたいに言われた上機嫌のイブラヒムは、思わずこう切り返すのだ。「君がくすねた分を取り戻さなくちゃね」。

 観客には、モモが店の商品を盗んでいたことを、店主(イブラヒム)が知っていたという情報はここまで与えられていない。だからここでまず「オッ」と思う。いたたまれなくなったモモが「これまでの分を弁償する」と言い出すが、イブラヒムは即座に「弁償しなくていい」と言い返す。そしてモモを自分の方へ向き直させると、その目を真っ直ぐに見て言い直す。「弁償はしなくていい。だが、盗みをするなら、私の店でやってくれ」。

 まあ、冷静に考えれば、こんなの倫理じゃない。だがこの瞬間、観ている観客(=私)に、「ぐぐぐっ」とこみ上げるものがあったことは確かだ。

 このシーン以降、これに匹敵する場面はない。ただ一つ言えるのは、紡ぐテンポというかリズムというか、語り口のテイストはこれの前と後でまったく変わらない。一貫した映画なのだ。

 結論を言うと、登場人物が少なすぎた。街が少年を成長させる、街が一人の子どもを大人へ育てる、という話にするには、モモに関わる人間がもっと多くあるべきだ。イブラヒムさん(であれ誰であれ)一人では荷が重い。しかもこのおじさん、途中からモモへの関心を投げ捨て、自身の探求に向かってしまうのである。カッパドキアの先に人の住む集落なんてあんのか(別にいいが)。

 終盤ははっきり言って破綻だ。だがこの破綻は、結果として、作り手の誠実さが表れたと言える。すくすく立派な青年へと成長させる話にでもなっていたなら、「気味が悪い。押しつけがましい。違和感がある」とか評したと思う。

75/100(13/12/1見)

(評価:★3)

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