トリックはかなり面白いのに。そのための強引な筋運びに、特に終盤以降、登場人物の感情がついていってないのでいまいちのれない。

人質ごっこから解放する時の「一緒に逃げて」から、マンションに現われワインに一服盛って「まだわかってないのね」と突き離したかと思うと、おもちゃのシャベルで乙女心が揺さぶられたあげく「駆け落ち」の誘いにのこのこ現われる。こりゃどれがこの人の本当のわたしなの？　千春は樹理と違って家に不満はないわけだし、その現在の生活を守るために仕組んだ計画だったわけだから、そりゃよっぽど佐久間に惹かれてしまったとでもしなきゃおかしいのに、そもそもどうしてそういう感情に至ったのかもよくわからない。

なんていうふうにも思ったけど、犯罪も遊び半分なら、恋愛もその程度の気分的なもんだっていう、感受性の鈍い世代としての彼らを描こうとしたということならわかる気もする。自分のことしか見てないとかっていう以前に、なにせ淡白で「本当の自分」とかもその日の体調でころころ変るので、こういう展開になるんですよ、と。そういう彼らの生き様がそもそも「ゲーム」的なんですよ、っていうんなら、ちょっとは気が利いてるのに。そこまでは言及していなさそう。

娘の保身を企てた親父は、結局最愛の娘をいけすかない広告マンにとられちゃうわけで、負けも負け。目の前で抱き合うふたりを見て去っていく石橋凌は、苦々しさを通り越して、もはやばかばかしくやっとれんわいという表情をしているだけに、そういうテーマを押し出してくれたほうがもっと良かったかな。なにせ最後の千春の行動もナルシー満々だし、それを知って「ゲームオーバーかな？」って微笑んでるし。これじゃバカップルだよ。