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[コメント] PARTY7(2000/日)

今風のコメディ、映画というメディアをジャック。
crossage

冒頭部、ホテルのカウンターにおけるボーイどうしの「洒落た会話」が始まったときからすでに、MTV的感性があまりにもわかりやすく発露されてしまうおかげで、見る者は、「ああ、この映画もタランティーノ以来の流れなのね」と容易に作風を推測しえてしまう……はずなのだが、ボーイどうしの会話に始まり、永瀬正敏扮する胡散臭いチンピラが組織の金を盗み出してそのホテルに着くまでの経緯を辿ったこのシークエンスが、とにかくやたらに長くてモタモタしているのだ。効果的な省略の技法を駆使すればほとんど秒単位の短い映像だけで表現しえてしまうようなエピソードを、洒落た饒舌で過剰に埋め尽くし、それがマッドハウスの小池健の手になるスタイリッシュなアニメーションを駆使したタイトルバックに取って替わられるまでに、時間にして約10分。これは長すぎる。

逆に言えば、制度的な説話法などハナから無視したその不自然な長さゆえに、僕などはまず「ああ、いま僕は映画以外の何かを見ているんだな」という心構えを持つことができ、何が何だかわからないその作風もそのわからなさのままに受け入れる姿勢を早めにとることができた。そして実際のところ、そのような見方こそがおそらくこの映画の最も正しい楽しみ方だと思われ、そこまで考え計算した末にこの冒頭のシークエンスを演出したのだとすれば、石井克人という映像作家の才能にもなかなかどうしてあなどりがたいものがある。

……活劇というかコメディというか、なんだろう、既成のジャンル映画の何にも似ていないこのような作風の映画が最近になって沢山生まれているのは、たとえば「新進」というレッテルの貼りやすさなどで商業的には歓迎できる事態なのだとは思う(アメリカだといかにもミラマックス社あたりが喜びそうな事態だ)。それは大げさに言ってしまえば、歴史(映画史)の忘却による平板化がもたらした事態なのかも知れないが、その「不幸」をここでとやかく言い立てるつもりはないし、現に映画はその百年という短い歴史のなかで何度も「不幸」になり、何度も「死んで」きた。その不幸のなかから、既成のパラダイムを逸脱した新しい種類の幸福も生まれうるということをも私たちは経験的に知っているのだから(サイレントからトーキーへ、ヘイズ・コードの功罪、CG技術の発達によるイメージのスペクタクル化、etc.)、こういう映画の不幸な側面ばかりに目を向けていてもしょうがないのかも知れない。たとえばこの作品を「映画ではない」と一蹴するのは簡単だが、いまやこのような類の作品まで流通し広く見られているということは、映画にとって無視できる流れではないはずなのだ。

かといって、素直に楽しめない部分も確かにあった。たしかに、カリカチュアライズされたキャラクター造形や、若者向け豪華キャスト、アニメーションなども駆使したスタイリッシュな映像表現など、現代的意匠の使い方やディティールはそれなりにこなれているし、テンポの悪ささえも逆に粘着質なギャグを誘発するのに貢献しているようで、それはそれで決して悪くない。なんせ監督いわく「大胆にデフォルメされた登場人物の放つオフビートな言葉の応酬と、スタイリッシュな映像の落差が醸し出す絶妙なユーモア」(チラシより)が売りらしいのだから。だがそれにしても、複数の人物が錯綜するそのいわゆる「オフビートな」会話のシーンで、やたらに連発される切り返しの多さには正直辟易してしまった。その切り返しの多さは、言ってみれば「ホラ、ここで笑いたまえ。笑いどころはここだよ」という制作者の自意識のあられもない露呈に他ならず、それはたとえば昨今のバラエティ番組などではもはや共通言語となり多用されているいわゆる「文字テロップ」の使用と、メディア的にものすごく似ていると思う。これまた大げさに言ってしまえば、一本道の解釈しか許さないファシズム的というか強迫観念的な情報伝達技術だよねこれって。

この監督とかあるいはSABU監督などのようないわゆる「新進」映画作家の、あたかもジャンル映画の歴史などなかったかのような振舞いには、たとえば文学でいうところの「J文学」ムーヴメントあたりと同じような可能性とその裏返しの危うさを感じなくもないのだが、総じて言えば、原田芳雄松金よね子の使い方が憎たらしいほど絶妙なこの映画作品そのものは十分に楽しく見れた。そう、映画を大衆娯楽という側面から捉えるのならば、オーディエンスのニーズに応えるためにはここまで徹底しなければならない(あるいは、ここまで徹底的にやれる才能が現に存在する)という現実を、世の映画批評家たちはもっと見据えてもいいはずだと思うのだ。

(評価:★2)

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