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[コメント] 駆逐艦ベッドフォード作戦(1965/米)

リチャード・ウィドマークの演じる艦長がすごい。『ケイン号の叛乱』のボガートをしのぐリアリティ。それに脇がいい。ドイツの准将と、アメリカ国籍の新聞記者とベテランの医師。艦長の非・適材適所のはずれ振りを際立たせる「零度」として完璧の設定だ。
ジェリー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







どのような戦略論にも、戦争が偶発事故からスタートするということが書かれている訳がないが、稗史はその真実を我々に送りつづける。

その描き方のバランスがいい。艦長が徹底した異常者すなわち平均からの偏差が極端に高い人物、ではなく、そこそこに偏差が高い人物として描かれるゆえに実在感が益す。そして偶発事故を起こす決定的な人物が彼ではないという筋立てにも、舌なめずりしたくなるほどの真実味がある。チームを構成する人材には必ず弱い奴がいる。そういう誰もが持つ経験にうまくミートするのである。

もちろん以上のような指摘は、企画段階の設定のうまさの指摘であって、撮影以降の段階のうまさはまた別にある。敢えて凝ったアングルのスチル写真のようなグラフィックな感覚を画面に持ち込むことにより、滑らかであるべき人や事物や空間の動きとしての映画がギクシャクと止まる。極端なクローズアップショットも随所にさしはさまれる。この停止のすき間に入り込む、コーンコーンというソナーの非人間的な音が、映画の世界を立体化していく。神経が磨耗して、正常と異常の区別が曖昧化する臨界の時空がそこに現出する仕掛けである。時おり役者たちが見せるかじかんだ手や指を息で暖めるしぐさ。こうした官能を刺激するしぐさを通じて、我々は、北極という異界における、2大敵国の対峙中に生まれる異常事態を、真に迫るような感覚で賞味することが出来るのである。惜しむらくはシドニー・ポワチエが単なる典型を超えて、その人物の個性のようなところをまで表現できていないところ。これでは『夜の大捜査線』のティッブズ刑事がひょいと着替えてこの映画に出てきたかのような錯覚を与えてしまう。

(評価:★3)

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