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[コメント] 容疑者 室井慎次(2005/日)

東宝映画らしさが良く出ている映画だったが・・・
chokobo

私は敢えて申し上げると、日本映画では東宝映画がやはり一番だと思っている。東宝映画が素晴らしい、ということだけではないが、東宝映画の歴史には、この映画会社の姿勢と芸術性について筋が通っていて見事だということだ。

かつて『黒澤明』を排出し、アニメやこの踊る大走査線シリーズもそうだが、歴史ある映画会社の中でもアカデミックなところが好きだ。

映画会社にはそれぞれ個性がある。かつて映画はその映画会社が抱えるスタッフで作られ、人目でその映画がどこの会社で作られたものだかわかった。

松竹には人間ドラマが多く、自然光を使った映像が多かった。東映は暗い映像を駆使して人物イメージを強調する手法が多かった。そして東宝は、やはりワイド画面からあふれるカラーが最も強い映像が多かったように思う。

今回の『容疑者室井慎次』は、明らかに東宝映画だ。登場人物にかかる影だとか赤い照明。セットでの対峙。遠近法の処理や長回しなど、正にかつて『黒澤明』が好んだ手法を採用していて好感が持てた。 刑務所の面会室のシーンは天国と地獄を意識しているのかもしれない。

そして話としても決して悪くない。警察権力が法にさらされた途端、違法捜査として暴露される。圧力をかける側がどんどん圧力をかけられてゆく。人は常に自分の仕事の正義を信じているはずだ。その正義が別の手法によって崩されてゆく。

この映画で室井は周囲の全てから否定される。告訴する弁護士、自分の顧問弁護士、警察権力上層部。自分の部下として働く警察官。いずれも彼を否定する。そして彼は黙して自分のことを語らず、ひたすらに自分の正義を貫こうと自分で真実をあばこうとする。

しかし、これだけの要素とこれだけのスタッフ、そして伝統ある東宝映画としての手法を取り入れ、見事に映画として完成させたにもかかわらず、全く面白くない理由は簡単だ。室井慎次に魅力がないのだ。

真下正義の魅力は、思い込みがはげしくドジだけど、フツーの警察官真下がネゴシエーターとしての能力を発揮するから面白かった。

スピンオフムービーとして展開するなら、本来室井に見えざる魅力を出してほしかった。かつての恋人がどうにこうの、とうのではどうも弱い。そして延々と気に障る室井も棒読みセリフ。これで全てが崩れてしまったように思える。

もう少し工夫がほしかったような気がする。

(評価:★3)

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