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[コメント] ブタがいた教室(2008/日)

実験的な要素が印象的でした。よくぞ粘った!すばらしい!
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







豚とつく映画で最近思い出すのが『ベイブ』ですか。豚がまさに主人公でセリフもあったりしますね。彼は決して殺される心配も何もない、全くのおとぎ話の主人公でした。

宮崎駿監督のアニメに『紅の豚』という映画がありましたが、これも主人公はもともと飛行機乗りですね。従って、”殺される”とか”食べられる”心配はありません。

それともうひとつ。『豚と軍艦』という映画も思い出しました。もちろん私、この映画を当時み見たわけではありませんが、今村昌平監督の初期の代表作ですね。すごいセットとすごいロケで、豚が大勢出演します。すごい映画です。

そして本作は、ほとんどドキュメンタリーです。うちのママが大ファンの妻夫木聡さんはとても素晴らしい演技でした。見事です。

そして子供たち。みんな演技というよりも、そのまま素の雰囲気が伝わって良かったですね。素晴らしい。

ふと『日本の夜と霧』という大島渚監督の初期の話題作を思い出しました。

この映画もドラマでありながら、ドラマでない。まるでドキュメントですね。もちろんシナリオも演出も施されていますが、当時の時代背景をバックに、臨場感かふれる激論が結婚披露宴で行われるというすごい作品でした。

子どもたちが教室で二手に分かれて、飼ってきたブタを殺すか殺さないかで激論を交わすシーンが『日本の夜と霧』に重なりました。時代も背景も全く異なる作品が、どうしてシンクロしたのでしょう。

きっとそれは、それぞれの時代の主人公が誰か?ということを指しているのではないでしょうか?

日本の夜と霧』の時代背景は、いわば60年代安保闘争の時代。そして何といっても当時の主人公は学生です。当時の政治に真っ向から戦いを挑んだ学生(セクト)があって、その中にスパイがいる、ということが話題の中心となります。激論の中で生み出される結論は空虚なものですが、激論そのものに迫力がありました。画期的な作品でしたね。

そして本作です。

今、時代の主役は誰なのでしょうか?

誰もいません。

政治家ですか?学生ですか?サラリーマンですか?先生ですか?それとも・・・

きっと時代の中で埋没し、最も存在意義を自ら見いだせずにもがいている児童。子供たちなのではないでしょうか。日本はこうした子供たちをまるで眼中にないかのようにほったらかしです。

子どもたちが大人になって、自らの意思で強く生きるための手段や方法や選択肢が提示されず、学校でも家庭でも”きれいごと”の中で無菌状態の中育つ子供たちに、大人は何を提示できるのでしょうか?

このクラスの新米教師はブタを育て、その行く末を決めるまで、子供たちととことん汚れた付き合いを続けます。すごいパワーだと思います。その思いは校長先生(原田美枝子)をも動かし、学校をも動かし、そして何より子供たちの心を強く揺さぶります。最後の最後まで結論を出さず、とことん子供たちに答えを求めます。この厳しい姿勢こそ、教師と大人が子供たちに与えるべき真実なのではないでしょうか?

子どもたちが自由の中で育ちます。そして、こうしな生き物を育て、そして殺すかどうか迷うことで、自由の重みを実感する。感情に左右されて、殺すか殺さないか、あるいは責任とは、などなど、色々な悩みを抱えて考え尽くすことで、かれらの未来が自ら”考える”ことにつながるのだと思いました。素晴らしいテーマです。

途中で母親たちが、担任と校長先生に「うちの子が臭い」とか「ブタの話しかしない」などモンペアまがいに詰め寄ります。しかし、校長先生は優しく毅然と「子どもたちが嫌がっていますか」と応酬します。親の都合ではなく、子供たちの意思で未来を決めさせようという、強い信念が伝わるシーンでした。

映画としてよりも、ドラマとしての面白さ、そしてこれが実際にあったお話であることに感心しました。

2009/05/03

(評価:★4)

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