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[コメント] アモーレス・ペロス(2000/メキシコ)

犬の演技がすごい!
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画に共通するもの。

つまり三つの全く環境の異なるお話が折り重なる共通部分とは「犬」ですね。

忠実で人間に寄り添う「犬」

ちなみにアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの名を世界に知らしめた『バベル』にも同じ設定が仕組まれていました。

それは「銃」でしたね。(本件については『バベル』のレビューに記載)

こうした共通項を通して、全く異なる世界を時間軸を超越してひとつの物語として構築する力強さは、かなり緻密な計算力と熱意とが並立しないと映画として成り立たないでしょうね。すごい作品でした。

(ちなみに『21グラム』も時間軸の映画。テーマは「魂」でした。)

では、なんで「犬」なんだ、というお話ですが、これは人間に対する挑戦でしょうね。人間という意思を持つ動物が、その人間に飼われている犬という動物を時に物質化してしまい、それが経済的、あるいは精神的な支柱となった時点で、人間の感情(環境)にも狂いを生じさせるということ。これは「犬」だからこそ成り立ったと思います。

家族を捨てて社会活動に向かった浮浪者のお話が最後に示されます。

彼は目の前で起こった交通事故の車から瀕死の犬を助け出します。

しかし、瀕死の犬が元気になった途端、浮浪者がもともと飼っていた犬を次々と食い殺す。この救われた犬は闘犬だったんですね。

情をかけて救った犬に、自分がもともと愛していた犬を食い殺される。

この一場面を切り取っても、これを人間に置き換えたら?という命題が浮かんできますよね。

夫が妻を殺し、子が親を殺す。

そんな人間の在り方を「犬」に置き換えたとして、果たして「犬」に罪を覆いかぶせることができるのでしょうか?

この映画に限らず、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥのテーマに共通する「格差」については、この初期作品から徹底して貫かれていますね。これもまたすごい。

21グラム』も『バベル』も同じような格差があるひとつの事件をきっかけに交差し、そしてそれぞれに狂いを生じてゆく。

なんと現実的なお話なんでしょうね。

この映画の後に韓国映画の『オアシス』を見たんですが、この格差という問題は、ある視点からでしか映画として描けない、という常識がこれまであったと思うんです。『オアシス』も素晴らしい映画で歴史に残る名演技を見ることができますが、この映画は弱者の視点でしか見ていません。

しかし本作(あるいは他の作品も)同じ環境を別々の階級から見ているという点において、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの取組は見事だと思いますし、その彼の初期作品として完成度の高さを見せつける強烈な作品だったと思います。

2011/01/01 自宅

(評価:★5)

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