コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] エレファントマン(1980/英=米)

I:リンゴの唄 II:象の孤独・人間の孤独 III:彼についての映画について
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ。

彼に必要だったのは、世間の理解でも、社交界での人気でも、行き届いた福祉政策でも、理想的で健全な社会でもなんでもなく、自分のことを本当に理解してくれる、尽くしてくれる真実の友情の、ほんの一握りであったのだ。

同情は愛にも真の友情にも成り得ない、と説く方もおられようが、彼が彼であることから「何か」・「大きなもの」を与えられ続ける奇特な人間、トリープス医師やケンドール夫人のような人々、も中にはいるワケで、そういう場合には関係はイーブンと也、友情だって当然に成立するのである。

*****

でも勿論、人生の総ては友情や愛だけじゃない。それで総てが解決するわけじゃない。 それはあくまで生きる「支え」でしかない。観劇後、医師と別れた彼が寝室でかみ締めた孤独。

「ああ、俺また一人ぼっちだ、お母ちゃん、寂しいよ」

これって障害者と健常者の断絶ってことなのか?少し前の脱出シーンとあわせて「障害者は障害者同士で暮らすべし」って、そんなことを云ってる単なる悪趣味映画なのかな、これは?

「ああ、俺また一人ぼっちだ、お母ちゃん、寂しいよ」

これって極めて人間的な孤独なのだと云えなくないか?まちがっても象の孤独なんかじゃない。(そもそも象は孤独など感じるのか?)彼は、帰英して人間らしく扱われることで、自分でも気付かないうちに、当たり前の人間になっていた、より一般的で普遍的な<孤独>を獲得していたのだと、そういう風に取ることは出来ないだろうか?

彼と彼の友人たちの成果を、限りなき前進と讃えることは、過ちか早計だろうか。

*****

ストーリテリングを志向した作品で、その割には饒舌さや構築の妙を感じ取れるわけではないし、映像的にも、前半二箇所、一回目はロンドン病院の受付でのシーン、二回目は馬車に乗り込む彼を医師と院長が高い窓から見送っているシーン、での「見下ろしショット」の怜悧な冴えを除けば、パンフォーカスも大した効果を上げておらず、幻視表現もどちらかというと稚拙で、芸術点が殊更に高いというわけでもない。

役者はいい。というか抜群だ。アンソニー・ホプキンスの「発声」には彼の天才を感じたし、アン・バンクロフトの聖女そのものの佇まいに心撃たれた。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。