コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 普通は走り出す(2018/日)

依頼された脚本がなかなか書けない話だ。尽きない愚痴と言い訳はウディ・アレンを彷彿とさせ、知り合いたちの間を渡り歩き無為に時間を過ごすさまはホン・サンス作品のようでもある。そんな二人の作品に共通するのは鼻持ちならない皮肉屋のスノッブ臭だ。
ぽんしゅう

だが渡辺紘文演じるこの自堕落な映画監督には"気取り”も、もちろんニヒルさなんて微塵もない。ただただひたすらダサいのだ。そこが数多の「映画が撮れない映画屋」の話しと違うところだ。

映画が好きで選んだ道だったのに世間が求める映画との折り合いがみつからない。ひたすら「愚痴と批判」をまき散らし、自分で張った煙幕のなかに閉じこもる不器用な男。後悔はしてないが満たされてもいない。そんな男の心情に重ねるトリプルファイヤーの挿入歌「中一からやり直したい」や「今日は寝るのが一番よかった」が滑稽でもあり、痛々しくもある。

反復される停滞のなか物語は一転。混沌の転調を経て行きついた小学校の校庭で、リボン掛けの小箱に込められた「映画の未来」が次の時代を担う少年に託される。この渾身のクライマックスに映画作家・渡辺紘文の真摯な想いをみた。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。