鈍色の空が印象的なオール・アイルランド・ロケでの濃密な空気感がまず素晴らしい。もちろん、キャストのほとんどが地元アイルランド人であることも、画面から漂ってくる「アイリッシュ臭」の大きな要因だろう。そうした濃い雰囲気の中で、異邦人ながらまったく浮くことの無いケイト・ブランシェットの役作りは、ほとんど自然体の域に達しているかのようだ。

問題は、音楽の使い方を含めた編集で、おそらくジェリー・ブラッカイマーが、ひたすら「えぐみ」を取り除き、咽越しの良いものにしようとした形跡がある。冒頭の「事件」シーン、緊迫したシーンをただの「ムード」と化して押し流してしまうBGM、唐突な最後のナレーションなど、すべて「観客の許容範囲を超えず、分かりやすい」という線を狙ったものだろうが、それが作品のパワーを著しく殺いでしまったのではないだろうか？　ディレクターズ・カットでもっとじっくりと観たいと思わせる作品だ。　

（おまけ）コリン・ファレル最高！