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[コメント] やくざ戦争 日本の首領(1977/日)

実録ものが一段落したところで、新しい映画の模索が始まった時代のやくざ映画。そう言う意味では時代を映した作品とも言えます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 『仁義なき戦い』(1973)に始まり、東映映画の看板にまでなった実録もの。この余波を使ったか、ここでも暴力団を扱った作品が作られた。ただし、実録ものとは異なり、本作の場合はむしろ文芸調に仕上げられており、雰囲気はずいぶんと異なっている。  実録ものは比較的好きな方だが、そちらを観た後で本作を見ると、雰囲気の違いでかなり楽しめる。

 どこが違うかと言えば、簡単に言えば金。基本的に低予算で早撮りで作られる実録ものと較べると、明らかに金のかけ方が違う。舞台もずいぶんしっかりしてるし、カメラもしっかりと時間をかけて撮影されていることが感じられるし、役者に関しても決して暴力慣れしてないキャラも多数登場している。予算配分がきちんとしてる分、過激な演出に走らなくても済むようになり、暴力そのものを描くよりもしっとりとした人間関係を追うことに時間が使われている。物語が先行し、それに沿って描かれることが、本作が実録ものと一線を画するものにさせているのがわかる(別段実録ものを悪く言ってるわけではない)。

 物語で言っても、本作は暴力によってのし上がる人間ではなく、主人公はすでに親分となっている人間が、駆け引きによって勢力拡大しようとしているのが中心だし、その分話も大局から俯瞰して観ている感じになっている。

 更にここにもう一人の主人公として青年医師を登場させ、ファミリーの一員となった彼の視点を通して物事を見ているため、ますます突き放し方が深い。この辺が雰囲気の違いとなって現れているのだろう。この突き離し方が本作に深みを与えている。

 物語としては、暴力団に婿入りしていく彼が、自分は流されないよう気をつけているにも関わらず、徐々に親分目線で物事を考えるようになっていき、引き返せないところまで行ってしまう。と言うもので、話の都合上、言葉のやりとりが中心となって展開していく。こう言った抑え目の雰囲気が、なんかとても新鮮な感じ。

 ところで同じ飯干原作と言うことで『仁義なき戦い』と対応して考えてみると、本作は菅原文太演じる飯能ではなく、金子信雄演じる山守の視点で描かれたものと考えることが出来るだろう。暴力そのものよりも、会話の駆け引きで相手に言うことを聞かせるという立場が共通してるし、「仁義なき戦い」の山守も、なにからなにまで自分本位で語っているのではなく、背後にはこう言った家族の軋轢や、組織自体を考えてものを言っていることを感じさせられる。そう言う意味で「仁義なき戦い」を補完する意味合いも本作は持っている。

 そんなこともあって、私は結構本作を楽しめた。

 義理と人情よりも金と上昇志向が絡み合うが、それまでの任侠もののようにウェットにはならず、実録もののように過激にも走らず、あくまで人間ドラマとして描いているため、本作こそが和製『ゴッドファーザー』のようでもある。少なくとも一作目の本作は、かなり見応えのある作品となってる。

 最後に。70年代を駆け抜けた実録ものから発展して本作が作られたが、80年代に入ってみると、本作の雰囲気をもった作品が多数作られているような気がする(大概の作品はクズのようなものだが)。本作は時代の節目を担った作品と言ってもいいのかもしれない。その第一本目として考えるなら、本作はかなり面白い作品と思える。

(評価:★3)

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