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[コメント] 最後の人(1924/独)

ヤニングスは悪人顔だからこそ、こういう役が映えたりする。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 映画黎明期の中心となり、ドイツ映画界に多大な足跡を残したムルナウ監督。この人の作品は、それまでに無かった派手な撮影や特撮など、新しいジャンルを切り開いたことで知られるが、本作もやはり映画史的には重要な作品となる。

 内容的には仕事一筋の男の生きざまを丁寧に描くという、その中では最も地味で単純な作品となった。

 しかし、これこそが監督の代表作とも言われているし、映画史に残る名作として知られている。

 これは、それまでエンターテインメント性ばかりを追求し、結果コメディか特撮に頼るようになっていた映画に、本物のドラマを投入するきっかけになったからなのだろう。派手な物語でなく、たった一人の内面を描くだけでも充分にドラマを作ることが出来ることを世に示しただけでも充分過ぎる足跡を残したと言えるだろう。

 実際、この物語は、人のプライドというものを極端な形で描き出してみせており、それを戯画化された普遍的な人間のあり方として提示している。誰しも持つプライドというのは、自分がつきあっている人よりも偉いと思いたい心として示されており、ホテルの使用人に過ぎない主人公が、それでもドアマンであることにこだわる姿が哀れというか、人間の真理を示しているようで、その哀れさがむしろ笑えてしまうほど。

 そのコメディ性が遺憾なく発揮されたのが、もう落ちるところまで落ちたと思った男が、突然大金持ちになってしまうというラストシーンだろう。これを「あり得ない」としてリアリティの欠如を言うよりも、「これはコメディなんですよ」ということを暴露したようなもので、そのエクスキューズがなければ、笑いも知りつぼみになってしまっただろう(それはそれで名作になったかもしれないけど)。なんでもこれは製作会社の意向あってのことだったらしいが、思わぬ面白い効果になったと言う事だろう。

 観ている側が自分人を顧みて、悲惨さを笑うという高度な笑いを提供してくれたこの作品は、間違いなく映画の幅を広げた名作と言える。

 そして本作は小道具の使い方が又見事。主人公がドアマンというだけあって、ホテルのドアが何度も現れるのだが、主人公がドアをくぐるたびに人生の転機を迎えていく。こういうアイテムの使い方もドイツ的なメタファーとして良い感じで仕上げられてる。

 名バイプレイヤーと言われるのヤニングスが本作で地味な普通の男を演じているのも特徴か。悪人面で、エキセントリックな演技ばかりしていた人が、こういう役をやると一気に飛躍したようにも思わされる。でもこれこそが役者の力というものなのだろうな。一切の字幕がないため、全てを体で演じてくれたヤニングスに拍手を送りたい。

(評価:★4)

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