コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] まあだだよ(1993/日)

姿三四郎』に始まり、本作で終わる。黒澤監督が自分自身を描いた作品とも考えられますね。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 文筆家の内田百けんの随筆を元に、内田のファンである黒澤明監督が作り上げた作品。そしてこれが黒澤監督の遺作となった。本人はこれを遺作と思って撮ったわけじゃないと思うのだが、見事に遺言のようになっているのが興味深い。

 思えば黒澤監督のデビュー作は『姿三四郎』(1943)。ここでも一本気で頑固な主人公が出ていたが、本作の“先生”の姿は、なんかその姿三四郎に重なる。一本気な三四郎がそのまま年を取ったら、本当にこんな感じになるんじゃ無かろうか?と思わせる部分がある。そう考えると、本作は黒澤監督にとっては原点回帰であり、自分自身を投影していると思っても間違いじゃないんじゃなかろうか?

 巨匠と言われ、世界的にも認められる黒澤監督だが、映画製作は常に困難を極めた。それぞれの作品一つ一つに相当な苦労話があるくらいだが、周囲の黒澤評を読んでいると気付くのは、黒澤監督は人間関係に相当不器用な所があることに気付く。それは自分の理想とする良い作品を作ろうとするあまりの、暴君的振る舞いであったり、交渉の下手さだったりする。

 駆け引きが苦手でずばずばものを言う人間は大概嫌われる。それに最終的にはかなりのヒットを期待できるとはいえ、それ以上に予算を食いまくり、それを隠そうともしない監督に出資しようと言う人は少なく、更に後年の作品は当初の赤字を覚悟しなければならないと言う状況の中、晩年になればなるほど出資者は減っていった。

 しかし、その中で映画に対する愛情を持ち続け、作り続けようとした監督。

 だからこそ、この作品は黒澤監督の思いが込められているのか、ずいぶんとウェットな作品に仕上げられている。

 黒澤監督得意な乾いた描写はほとんど出てこず、“先生”の頑固さとか、それを慕ってくる生徒達の人情とか、そんなものが多い。それが成功しているか否かは別問題として、どれほど頑固でも、こういう風に慕ってくる人は必ずいるもので、それは監督自身の実地体験から来ているのでは?と思うと、なんかほんわかしてくる。

 そう言う意味で、監督が“先生”と自分自身を重ねて考えていたとするのならば、まさに本作は自分を天才だと分かっている人間にしか作ることが出来ない作品とは言えよう。

 尤も、映画単体の出来そのものとしてはやはり普通のレベルを出ないかな?ちょっと長すぎるし。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。