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[コメント] 一人息子(1936/日)

厳しく、暖かく見守ってくれる人がいるという安心感。現代で作るとこれが嘘っぽくなってしまうのは何故なんでしょう?
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 それまで頑なにサイレントで作り続けてきた小津監督のトーキー第1作。戦後の小津のスタイルである世代の断絶というものを戦前で始めた作品でもあり、小津監督の転機となった作品とも言えるのでは無かろうか?

 本作を観ていると、本当に現代的なセンスとの違いというものを感じさせられる。当時は子供は親に従い、親を幸せにするために一生懸命な時代だったのだな。それが子供としての義務であり、ここに登場する息子は、その基準からすれば言わばドロップアウトした存在に他ならない。しかし、今から見るなら、これは決してドロップアウトなどではない。それどころかこれほど母のことを思い、母に尽くそうとするその姿は、私自身の過去を振り返っても反省する事しきりである…事実、決して親孝行してないもんなあ。これは当然逆も然り。息子の嘘を知りつつ、その嘘を受け止め、暖かい目で見守る母。

 人もうらやむような、見た目の成功なんて良いじゃない。これだけ思ってくれる人がいるんだから。

 本作の狙いはむしろ失敗した息子の情けなさを描くほろ苦いコメディにあったのかも知れないのだが、むしろ私は胸を締め付けられる思いにさせられてしまった。

 ただ、ラストに少々不満はある。最後に郷里で一つ溜息をつく母親は、ちょっと寂しすぎるんじゃないか?それとも現代的なセンスと当時の意識にずれがあるんだろうか?まだ分からない。

(評価:★4)

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