コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 山椒大夫(1954/日)

今まで二度観てますが、今度は是非劇場で観たい作品です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作の原作は森鴎外だが、そもそもこれは説経節の「さんせう太夫」を翻案したもので、小説にするにあたり、元々あった政治性と残酷性を排除し、こどもにも読めるように。というソフトタッチの作品に仕上げられていた。その映画化にあたり本作は、逆に本来持つ政治性を、この時代のものに変えて付加しているのも特徴だろう。安寿と厨子王の父正氏の正義感を強く打ち出してみたり、最後の厨子王による奴隷解放を強調してみたりと、更に最後に厨子王が全てを捨てた時に初めて母と再会出来ると言った具合にかなり社会派的な要素を中に入れている。

 その部分が鼻につくかどうかと言うところで多少評価は分かれるだろうけど、しかし本作の美術に関しては文句の付けようが無し。宮川一夫による映像美は、早坂文雄の音響の上手さと相まって、キャラが何も言わなくともその心情まで表しているかのよう(前半の母と引き離されるシーンや、ラストの母との再会のシークェンスは、一種の教科書的な描写とされ、日本内外を問わず、多くの映画で参考にされている)。凄まじい演出力を見せつけてくれた。

 ただ、だからといって文句がないという訳ではない。やっぱり主人公厨子王役の花柳喜章が今ひとつはまって見えなかったのが一番の問題。厨子王があまり主体性を持たないように仕上がっているのだが、花柳の演技がオーバーアクション気味で、そこがちょっと興が削がれる。

 しかし、こういう「名作」と呼ばれる作品はやはり複数回観てみるものだ。最初に本作を観た時は、チャンバラシーンもなく、盛り上がりにも欠けるなあ。とだけしか印象が無かったのだが、改めて観てみると、凄い作品に見えてくる。次観る時は是非劇場で観てみたいものだ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。