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[コメント] イカとクジラ(2005/米)

新世紀に甦ったヌーヴェル・ヴァーグ?今でも充分通用するじゃん。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 しかしこの作品には驚かされた。新世紀に入って作られた作品なのに演出がむちゃくちゃ古臭い。あらかじめいくつも賞を得てる作品だって事は知ってたし、監督も素人のはずはないんだけど、最初は監督が慣れてないのか?とか思ってたのだが、しばらく観ていくうちに分かってきた。

 この古い演出は明らかに狙って作ったものだ。しかも敢えてヌーヴェル・ヴァーグ風に。

 なるほどこの作り、トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』とそっくりだし、父につれられて映画に行った時に流れていた作品はゴダールの『勝手にしやがれ』だった。明らかに狙った作りだったな。

 改めて思うにヌーヴェル・ヴァーグ的な演出は本当に青春ものには似合う。思春期は人間の体が作り直す時であると言われるが、その際のホルモンバランスの偏りは様々な距離感を狂わせる。それは親子関係や友人関係と言った人下関係のみならず、時間的感覚さえ狂わされてしまうことがある。苛つき不安に陥り、時間を飛ばしたり凝縮したりすることは、まさしくヌーヴェル・ヴァーグの時代に培われたカメラ・ワークでフォローできるのだ。現代にそれを復活させて、しかもしっかりした映画にしてくれたことが嬉しい。懐かしいと言うよりはむしろこの時代になってこれを作ってくれたことに拍手を送りたい。

 しかし本作は構成上かなり『大人は判ってくれない』に似ている。決して貧しい家ではなくても、親は自分のことで手いっぱいで子供に愛情を振り分けることが出来ない家庭。「僕をみて」というシグナルが一切通じない場合、子供は親に対してではなく、自分や他者を傷つける行為にふけり、“ここでない何処か”に行こうとし、挫折を繰り返すことになる。それでどこにも行けなくなってしまったとき、子供はどこにいくか…

 『大人は判ってくれない』で主人公アントワーヌは海に行き、そこで戻ってくる。一方ここでのジェシーはどうだったか。彼が一度も行ってない(というか、避け続けていた)ところが一つだけあった。彼は今まで怖くて見られなかったニューヨーク博物館にあるイカとクジラの展示物を観に行くのである。彼がこれを何故怖がったのかは劇中には描かれていないが、深層心理の中では、互いに食い合おうとして争っているイカとクジラは両親を示していたのかもしれない(エロチックな意味でも)。あのシーンは大きなイマージュを感じるよ。

 ある意味ヌーヴェル・ヴァークをこの時代でやったというのは、非常に面白いことであると共に、今でも尚充分に鑑賞に堪えうる作品であることをしっかり示していたことは、本作の大きな功績だろう。

 ちなみに中学生の弟フランク役を演じているオーウェン=クラインはケヴィン=クラインとフィーヴィー=ケイツの間の子。いわばエリート役者だし、堂々たる演技者であるのは分かるのだが、それで演らせてるのが自慰中毒の中学生ってのがなあ…親父から叱られなかったか?

(評価:★4)

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