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[コメント] 力と栄光(1933/米)

本作は後発の『市民ケーン』と比較されてしまうと言う不幸な宿命を負ってしまいました。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 大金持ちの男が自殺し、時代を後戻りしつつもその真相を探る。という、『市民ケーン』的な作品。と言うよりその先駆的作品と言うべきか。時間軸をバラバラにして過去と現在を自在に飛び回るという、この当時にしてはなかなか実験的な作品。

 確かに今の目で観る限り、物語と設定は大変面白い作品に仕上がってる。何かを得た結果、何を失ったのか。という面から見ると本作は興味深い。トムは元々ガキ大将気質で、若い頃はそれなりの人達が彼と一緒に働くのを楽しんでいたし、面倒見も良かった。しかし、結婚して妻に苦労をかけながらも地位を手に入れたとき、彼はそれまで持っていた人脈を全て失い、妻からの愛も失ってしまった。大金を得ることは出来たが、そのため多くの人々から恨まれ、時として自殺者まで出してしまう。そして本当に愛そうとした女性エヴァを手に入れると妻が自殺。エヴァの秘密を得たとき、彼は自分の命を断つしかなかった。そして結果的に金は残ったが、ほとんど誰も彼の葬儀に来る人もいなかった…あらゆるものは等価交換と言われることもあるが、表面的に栄光を駆け上がった人間というのは、他人よりも遥かに多くのものを失っているという事実を描いたものとして考えることも出来るだろう。過去と現在を分割して、時間の流れを変えて二重に話が展開するのも、現在の基本テクニックとはいえ、この時代にしては頑張ってる。

 やや道徳的な部分が強い感じはするが、かなり面白い物語と設定である。

 ただ、これは多分『市民ケーン』を観る前か後かで評価はがらりと変わってしまうだろう。同じ設定を使い、しかも突出した演出力を誇る『市民ケーン』と較べると、どうしても本作は演出面が弱すぎ。有り体に言えばかなり退屈な作品になってしまった。実験的作品のため監督の力不足のせいにするわけにはいかないが、傑作になり得た作品を、凡作にしてしまったのがちょっと勿体ない。物語が似ているため『市民ケーン』と比較され続けてしまうのも弱み。

 まだトレイシーは若く、老け役が今ひとつはまってないけど、青年時代を演じている姿はそれなりにはまっている。ただ、この作品ではむしろその謎を追う秘書のヘンリー役のモーガンの方が上手く感じてしまう。

(評価:★3)

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