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[コメント] パブリック・エネミーズ(2009/米)

良い意味でも悪い意味でも、いかにも「マン監督映画」っぽい仕上がりです。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 マン監督はピカレスクロマンを得意とする監督で、これまで数多くの悪人を主人公とした作品を撮ってきた。しかし改めてそれらの作品を思い出してみると、本作も含め設定的には妙に古い感じがするものが多かった。

 そう考えてみると、マン監督は古き良きハリウッド映画を今も撮り続けようとしている監督と言えるだろう。昔から変わらずに作り続けられているものを作り続けることに意味を見出しているのかも。

 今や演出ばかりが派手になったハリウッド映画界では、こういった懐かしい匂いがする映画は逆に残っていくだろうし、受け入れやすい時代だろうから。そういう意味では現代はマン監督によってようやく良い時期に入ったのかもしれない。時代がぐるっと回ってるので、人によって、これは新鮮に見えるだろうし、人にっては懐かしいと思える作品になっている。

 異論あるのを承知で言わせてもらうと、マン監督は役者の演技にかなり制限を加えようとする。それで役者によってはそれが合わないこともままある。たとえば『ヒート』や『コラテラル』、『マイアミ・バイス』と言った作品は当代随一の役者を使ってはいるものの、キャラに伸びやかさがなく、妙に小ぢんまりした演技に見えてしまうのが難点。おそらくは監督の「かくあるべし」イメージが強すぎて、いい役者になればなるほど、演技に無理が見えてしまうのだろう。

 その意味でデップと出会えたのはマン監督にとっては幸運なこと。デップは個性派俳優に見られがちだが、実はとても器用な役者で、役によって演技を自在に変えられる。一流でありながらきちんと監督の要求にこたえ、制限がつけられてもちゃんとその範囲内で個性を出せる役者だ。その意味でこのタッグは間違いなく最高だ。デップは見事にマン監督のメソッドに応えてみせた。コティヤールも、登場時間こそ少ないものの、存在感はたっぷりあって、ちゃんと花を添えてくれた(そういえばマン監督の作品で女性がこれだけ目立ってるのは珍しいな)。男ばかりのむさくるしい映画になりがちなのを、ちゃんと見どころを作ってくれている。

 ただ、この二人に割食ったのがベイルだったかな?この人も器用な役者で、自分の役をきっちり演じてはいたけど、あの立ち位置でなんでこんなに個性出せなかった?目立たそうと思ったら目立てる演出はいくらでもあったのに。ベイルほどの役者を出す必要性ってあったんだろうか?

 後、気になったのは、ジャックは庶民の味方で義賊と言う前提があるのに、一般人の反応が薄かったところ。設立されたばかりのFBIについても、もう少しその内容に突っ込んで欲しかったし(ベイルが個性を出せるとすればこの点にあったはずなのだが)、2時間半もあった割には、結局デップを観る以外の見どころがなかったような?

 そういえばジャックはポリシーとしてできるだけ人を殺さない。と言う立場があったはずなのだが、劇中ばかばか人を殺してるシーンもある。自分のポリシーが守れなかったことに対し、もうすこし真剣に悩む描写も欲しかったな。

 …観たときはかなりいい映画のような気がしてたんだが、いろいろ考えていくとどんどん点数が下がっていってしまった。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ペペロンチーノ[*]

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