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[コメント] アイアンマン2(2010/米)

アメリカ神話の再生を目指すも、この作品で新しい試みは一切存在しない。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 まず本作では、S.H.I.E.L.D.という組織が登場する。これは前作のラストでちらっと登場した組織なのだが、それが本作では少しだけ拡大され、トニーの運命を左右する組織となっている。

 実はこのS.H.I.E.L.D.と言う組織については劇中ほとんど何も語られてない。分かっているのは、世界の軍事バランスを壊しかねないアイアンマンに対しても一定以上の関心を持っていないこと。トニーの父親が関わっていた組織であること。そしてどうやら彼らが関わっているヒーローはアイアンマンだけではなさそうなこと。それくらいだろうか。それでヒントだけ与えて、後は自力で答を掴むのを待ってるのは、トニーに自力で困難を越えさせることによって本当にヒーローとしての自覚を持って欲しいと言う願いがその視点には込められていたように見える。

 そしてもう一つ、トニーの父親ハワードについて。彼は本物の天才であり、彼が残した研究こそが実際にトニーの命を救うことになった。彼はトニーのことを何よりも大切に愛していたが、生前その様子は全く見せることなく、トニー自身もそれを恨みに思っていたらしいが、父が自分に残してくれたものを発見することで、その愛に気付いていく。

 この二者、S.H.I.E.L.D.とハワードの持つ意味はどちらも同じだろうと思える。

 言葉にしてしまうなら、それは「父の愛」。

 母の愛とは異なり、父の愛は分かりにくい。子供は父から愛情を受けていても、あたかもそれは自分を憎んでいるのではないか。と言う思いにさせられることもしばしばである。ところが父の愛とは、直接声をかけたり接触したりすることではない。黙って見守りつつ、時に正しい道に導く姿なのだ。

 …敢えて断言してしまったが、これは日本のものではなくアメリカ的な価値観の上に立ってのこと。例えばこれはジョン・ウェインが一貫して演じていたアメリカの父親の姿であったし、これこそ“古き良きアメリカ”を示す親の愛である(そして、今の映画界が敢えて背を向け続けているものでもある)。それを敢えて出すことで、正しい親子像を作ろうとしたのが本作の最大の目的であろう。

 考えてみると、これ以外にも結構父と子というパスワードは散りばめられてたりもする。例えばイワンがスターク社に対して抱く恨みは父が死んだことに対することだった。ただし、死ぬ直前までイワンと父アントンはほぼ一心同体の存在だったが、それは不自然なものとして退けられているのも特徴的な描写。

 一作目の『アイアンマン』はアメリカと世界の現状を描いて見せたが、本作でアメリカはどうあるべきか。と言う答えを示そうとしていたかのようでもある。そう考えるならば、2作目の本作もきちんとした存在理由はあり、少なくとも作り手は真摯に答えを出そうとして努力したことは認められる。

 …ただ、それを呑んだ上で言うのだが、根本的な意味でそれはとても気持ちが悪い。それは単に良きアメリカに戻ろうっていう懐古趣味にしか思えないし、父の偉大さにひれ伏す息子なんて構図は、古さを通り越して神話でしかない。それをわざわざ、しかもこんなストレートに出すなど、映画の持つ反骨精神を完全に捨ててしまったとしか思えず。

 稚拙なアメリカ神話の再生の試みとでも言えば良いのだろうか?それが気持ち悪い。

(評価:★2)

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