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[コメント] アーティスト(2011/仏)

映画好き狙い撃ち。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 映画のおもしろさとは何か?これは色々なことが言えるはずだが、その時代その時代で観客が求めているもの。といえるはずである。

 社会によって年代は作られていく。そしてその社会を背景に面白さも変化していくので、その年代年代によって映画も進化なり変化を余儀なくされていく(実際今70年代の東映作品とかATG作品なんて、真面目に観て面白いわけではない。ネタとして観るから面白いのだ)。多かれ少なかれ、必ず社会の影響があるからこそ、映画は面白いのだし、だからこそ古い映画を観るときは、その制作年がとても重要になるのだ。

 そして現代はどうなっているのか?というと、制作費がインフレを起こし、いかにCGやエフェクトで観客を魅了するかという時代となっている。例えば『アバター』(2009)がヒットすれば3DCG作品の愚作が雨後の竹の子のように出てくるような状態だ。いかにして物語を作ろうというより、いかにして見栄えのする作品を作ろう?という感じになってしまってる(全部が全部と言ってるわけではないけど)。

 そんな時代にあって本作が作られた意味があるのだろう。確かにデジタル時代で画面の綺麗さはかつてのサイレント作品とは較べものにならないが、あくまでこういう作風にこだわったのは、この時代にあってもアイディア次第で良質映画が作れるという意地だろうし、アナクロの極地を作ることで逆に観客の度肝を抜こうということだったのだろう。そしてそれこそが評価の対象だったかと思う。この時代にポコッと一本こんなのが作られたという事実がなんか嬉しい。

 この作品の古さはそれだけではなく、物語もまるで本策の舞台となった20年代後半(う〜ん。こう書いてしまったが、実際はこの物語は30年代および50年代なんだよな)に合わせたような物語になってる。具体的に言えば『スタア誕生』(1954)を地道に再現して見せたというか…全くもって古く単純な物語。だけどそれがこの作品にはぴったりはまって面白く感じさせてくれる。

 つまりはこういう物語に飢えていた。と言ってしまえる状態だったのだ。よりシンプルに、そしてコンピュータを使わない、人間の技術だけの演出に。だからこの作品はとても新鮮に思えたし、こう言うのが時々映画館で観られれば良いとも思える。  このスれた時代、純粋に映画ファンを楽しませる作品もあって良いじゃないか。実際楽しかったというより、嬉しかった。

 キャラに関してははまり役といえるだろう。強いて言えばベビー役のミラーがハリウッド女優と言うよりもフランス人が好むようなキャラなのがちょっとした違和感と言った程度か。執事役のジェームズ・クロムウェルと犬のアギーの役所も古くさいけど良く、実に素晴らしい。

 ちなみに劇中何カ所か音声が入る部分があるのだが、そこで使われてる言葉が全部映画用語だったとか、場面切り換えにワイプやフェードインなど、当時使われてる技術で一貫してるとか、とにかく映画好きであれば分かる要素が満載で、これ又嬉しいところ。

(評価:★4)

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