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[コメント] ソロモンの偽証 前篇・事件(2015/日)

本作は長い。でもその長さが一番持ち味を出せる。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 宮部みゆきといえば、どちらかというとTVサイズの物語作家と言った印象が強い。これは別段けなしているわけでなく、大掛かりなセットや特殊撮影よりも丁寧な心理描写の方がこの人の持ち味なので、それは短い映画よりもじっくりと人の心を掘り進められるテレビの方が向いているから。実際それを無視して映画を作ると爆死することが多く(一種の伝説となった『模倣犯』(2002)の例もある)、著者の映画化作は結構身構えてしまう。

 ただ、この映画化に対して朗報は、これが5時間に及ぶ大作であるということ。実は本作を観る際、この点が大きかった。それに勿論『八日目の蝉』で見事な心理描写を描いてみせた成島監督の力量を劇場で見てみたくもあり。

 確かに前編だけで2時間半は長い。それは事実だが、その長さにほとんど無駄がないのが本作の凄い点。冒頭の成長した涼子が、現在の校長に話をするシーンがたるみを持っているくらいで、後はもう怒涛のごとく。飽きることもない。

 本作に登場する人物はかなりの数に及び、その中で心理描写を必要とするキャラも数多い。それを取りこぼし無く拾い上げつつ、心理描写をやってはいけないキャラとの区別もしっかりと行うという難しい描写がしっかり出来ていたし、それも映画サイズで緻密に描写されているので実に見応えがあった。

 時にその描写は、感情を爆発させることで友人関係を破壊するものであったり、理性と感情がぶつかり合うものであったりする。時には静かに精神が壊れていくような描写もあるのだが、それを様々なテクニックを駆使し、目で見えるように作っている。映画そのものはそんなに起伏が多くなく、どちらかと言えば静かな部類の作品だが、そんな中でひしめき合う感情が見事に画面に映し出されている。それを観ているだけでもまったく飽きが来ない。

これだけの長丁場をほとんど飽きさせずに見せられただけでも本作が映画化される理由があったと思わせてくれる。

 今回は学生たちで裁判を開くことを決定したところで物語は閉じるが、解かれていない謎もあり、しっかり続編に期待を持たせてくれる作りも良し。結果として、全般的に質がとても高い作品となった。

(評価:★4)

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