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[コメント] 百日紅 〜Miss HOKUSAI〜(2015/日)

演出は最高。物語は薄味。できれば2、3作のシリーズにしてもらっても良かったな。又こんなのを劇場で観てみたいよ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 原監督とProductionI.G.という組み合わせは確かこれが初めてとなるはずだが、とても手慣れた作りで、まるでこれまで散々一緒に作ってきたかのような不思議な感触がある。  これはこの二者の持つ方向性がたまたま一致したことが理由に挙げられるだろう。「クレヨンしんちゃん」で名をなした原監督は、元からアニメーションで不条理的なものを描くのに長けており、2007年には妖怪そのものを描く『河童のクゥと夏休み』を作っている。一方ProductionI.G.は妖怪が好きらしく、他の制作会社と較べても明らかに多数の妖怪をモティーフにした作品を多数手がけている。そんな両者が合体して作られたのが本作。だから本作は原監督作品であると共に、ProductionI.G.が作った作品であるとも言える。

 本作は基本ミニストーリーの連続で、連続短編を長編で作ったと言った具合。一つ一つの物語で起承転結はあるものの、大きな意味での物語の流れはあまりなく、その辺が映画として作るには弱い感じ。ややマニアック方面なテレビアニメで作った方が映えたかもしれない。ただ、その描写の力の入れ方は流石映画サイズ。3Dと2Dのどちらも駆使して見事な画作りをしてくれた。デジタルを用いて生の質感を描く。I.G.の狙いはまさしくそこにあるんだろうから、映画で良かったのだろう(稚児のシークェンスはテレビじゃ無理だし)。

 それも含め、本作は原監督らしさとI.G.らしさがかなりせめぎ合ったようなものとなっていた感じ。原監督としては、江戸という時代の中で、窮屈な環境であっても、出来るだけ自由に生きる女性の姿を描こうとし、I.G.側としては、人間と妖怪が折り合いを付けて生活している、いわば魔都としての江戸を描こうとした。

 その二つの方向性が融合したのが本作と言えるのだが、そこは上手くいっているところもあり、いってないところもあり。というところか。

 闇の中の中世という意味ではかなり上手く行ってるとは思う。一つ一つのエピソードに必ず神秘的というか、妖怪を絡めて、そこに力を入れていく手法は、演出の巧さと相まって見応えあり。

 一方、その中でお栄が何を考え、どう生活し、どう自らの往くべき道を定めていくのか、その辺の深め方が浅い感じ。お栄の心は強いが、人を好きになったり恨んだり、身内の死に直面して、ある部分はますます強く、ある部分は弱くと、時間を追っていくに連れ心境の変化を描くべき所がちょっと足りてなかった感じ。

 そうだな。この雰囲気で映画を観るのはとても楽しかったので、出来る事ならあと一時間ほど欲しかったかな?

(評価:★3)

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