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[コメント] アウトレイジ 最終章(2017/日)

なるほど前2作でやり残したことが一つだけあったのか。最後でやっと気がついた。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 容赦ない暴力描写と暴力団の内部抗争を精緻に描いた『アウトレイジ』シリーズ第3作。まさか監督自身も三作まで続くとは思ってなかっただろうが、ようやくこれにて完結を迎えることができた。

 1作目『アウトレイジ』は「義理と人情」は名ばかりの暴力団組織の中で、古い価値観を持つ大友の苦難を描き、2作目の『アウトレイジ ビヨンド』では再び娑婆に舞い戻った大友による復讐劇が描かれている。

 大友が属していた山王会に関わる物語はこれですっきりと終わっているため、これ以上の作品は不必要だと思っていたものだが、いざ三作目の本作を観て、これまでの二部作で一つだけ足りなかったものがあったことに気づかされた。

 1作目と2作目で作品としてはちゃんと完結しているし、描写も過不足なかった。それに3作目の本作でやってることは基本的に2作目と同じような展開になっていて、ほとんど目新しさは無かったのだが、前二作を受けての集大成を目指したのか、いくつか特徴はある。

 まずは前二作の核となる部分をどちらも取り入れていること。

 まず大友が再び古いタイプのやくざものに戻っている。今回の殴り込みは大友にとって利は無いし、理も無い。確かに大友にとって花菱会は因縁浅からぬ相手ではあるが、そこになんら感情のこじれは無い。実際積年の恨みを持つはずの西野とあっさりと手を組んでいることからも推測できるだろう。

 大友にとって今回の帰国はただお世話になっていた韓国の裏社会に対するけじめをつけるためだけの行為であろう。この古いやくざものというテーゼは1作目に現れるもので、今回の大友はそれに沿ってほぼ義理と人情だけで行動している。

 一方、その義理人情は大友の中で完結したものなので、しがらみには捕らわれず、標的を淡々と処理しているのが二作目に通じるところである。

 物語の終わりまで基本的にこの方向性で進むため、1作目と2作目の同じ事を繰り返してるだけか、と思わせる。

 ところがこれがラストシーンでいきなり変化する。

 ラスト。大友がなすべき事は二つあって、どちらを選ぶ?と思っていた。一つにはこれまで散々裏切り劇を演じてきた西野に対して牙を剥くパターン。流れからするとこれはあり得ないのだが、結局第二作から続いて西野の手のひらの上で踊ってるだけなので、花菱に一矢報いて欲しいという思いもあった。

 そしてもう一つは、仕事人よろしくただ去って行くパターン。尺の関係からこちらの方向を取るっぽい雰囲気になっていった。

 ここで大友が去ってしまったら、それはそれで話は終わる。西野との関係で同じパターンで続編は次々に作られるだろうし、マンネリになるんだろうなあ。

 …と、思った次の瞬間だった。

 ラストシーンで大友はおもむろに拳銃を出すと自らに突きつける。まるで『ソナチネ』のラストシーンのように。

 本人曰く、それが「けじめ」なのだそうだが、その必要性は無いようにも思える。ただ去って行くだけで何が悪いのか?

 しかし、大友は引き金を引いてしまう。

 その理由は直後に分かる。

 かつて大友が壊滅させた山王会は再びクーデターが起こるのだが、その際、組長を殺したのは大友に押しつけるというシーンが出てきた。

 これは即ち、大友という存在が、日本の暴力団組織にとって、「伝説」に変わる瞬間だったのだ。

 これから日本の暴力団で抗争が起き、人が死ぬ度、「大友がやった」という言葉がどこからでも聞こえてくるのだろう。それだけ大友という存在は大きく、伝説に足る存在であった。

 ここが重要。

 前二作でやり残したことが一つあったのだ。それが大友が伝説になると言うこと。彼が死ぬことによって、逆にその存在感が大きくなる。そこを描くためにこそ、本作は存在したのだろう。

 最後で「ああ、なるほど!」と膝を打ったところがあり、ちゃんと三部作として閉じた作品になってくれていた訳だ。気持ちの良いラストだった。

(評価:★4)

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