コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 地上最大のショウ(1952/米)

デミル監督作品の中では一番好きですね。サーカスの裏側が見えます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 サーカスを舞台としたスペクタクル映画。1952年全米興行成績1位。かつてデミル監督は20年代初期に企画するが、やっと成功した作品で、監督の並々ならぬ決意が感じられる作品に仕上がっている。ここで使用されたサーカスのセットは本物のサーカス一座であるリングリング・ブラザース=バーナム・アンド・ベイリー一座(劇中でも同じ名前)の協力によるもので、事細かくテントの設置から安全装置の敷設まで描かれているので、ドキュメンタリーとしても大変参考になる作品で、壮大なサーカスはどれだけの苦労があるのか、と言う点で観ることも出来る。

 特にサーカスは人間の極限の芸を見せることがその真骨頂。それがしっかりと描けているのが嬉しい所だ。

 物語は男女の愛情を絡めた群像劇であんまり目新しいところはないのだが、何せ俳優陣が豪華な上に、背景のスペクタクル性を感じると、それだけで圧倒されるほどだ。それにこの長尺を埋めるため、群像劇に限って見ても、話は二転三転。一切素顔を出さないスチュワートの勿体ない使い方も含め、この長さで飽きさせない。

 でも本作で一番面白いのは、華やかな舞台を支える裏方の苦労だろう。もちろん座長は経営やスケジュールも含め、一番頭を使う立場にあるが、ここでのヘストン演じるブラッドはそれらを決して人任せにせず、自分で何でも抱え込もうとする。結果、ものの見方は全て合理的、機械的になってしまう。心許せる仲のホリーに対してまで、それを当てはめてしまおうとするので、結局それは“非人間的”の烙印を押され、サーカスが派手になればなるほど孤独になっていく…いわば独裁者タイプの人間になっていく。ホリーは彼の孤独を知っていたから彼を愛し、逆にそれによって傷つけられる。最初彼女が安らぎを求めたのは意外にも芸の中であり、一生懸命に芸に打ち込むことによって彼と共に歩もうとしていた。それが表舞台には出ない努力と、度胸となっていた。しかし、やがて彼女は自分の弱さを知ることによってブラッドにはついて行けない事を知ることになる。最初半分誇らしげに「あの人はサーカスのことしか考えてない」と言っていたのが、やがてブラッドに対する決別の言葉に変わっていくのだ。それはブラッドが本当に打ちのめされる時まで続くが、彼自身がうちひしがれてしまった時、逆に生来の勝ち気を取り戻したホリーに対し、最後にブラッドが語る言葉が巧い。このキーワードあってこそ、この作品が本当に引き締まったものとなるのだ。

 勿論脇を固めるキャスト陣もヴェテラン揃いで、群像劇としてしっかり機能しているのも重要。特にスチュワートはクラウンのメイクを決して落とさない分、行動と発言だけでその存在感を見せつけてくれる。あんなメイクしてながら、しっかりシリアスしてるあたり、巧さを感じさせる。他の人間もちゃんと存在感を出していて、だからこそ飽きさせない作りが出来ているのだ。

 趣味的な満足感と群像劇の心地よさが合わさったものとして、大満足の作品だった。  尚、本作は大作続いた割りに監督の初めてのアカデミー作品賞(及びアーヴィング=G=タルヴァーグ賞)受賞。監督は授賞式で感激して涙ぐみ、お礼の挨拶も出来ないほどだったとか…彼の作品の中では意外に評価は低かったりするが、私にとってはデミル作品の中では一番好きだ。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)りかちゅ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。