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[コメント] 名もなき生涯(2019/独=米)

きつさと美しさの両面攻撃。それを3時間近く。観終わったら精神力がごっそり削げ落ちていた。これがマリックの真骨頂。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 実在した、第二次世界大戦に自分の信念を曲げることなく亡くなった人物を描く作品。映画では数多くの反戦をテーマにした作品が作られているが、戦争に反対したために殺されてしまったというのは結構多く、ドイツでは『白バラの祈り ゾフィー・ショル最期の日々』(2005)とか、日本でも『人間の條件』(1959)なんかも作られており、映画としてはそれなりにメジャーなテーマと言える。同じく2019年に製作された『ジョジョ・ラビット』(2019)もその系列に入るかもしれない。

 本作の主人公フランツは活動家ではない。単に信仰深い田舎の農夫に過ぎない。ただ人よりだいぶ頑固ということと、人を殺す戦争は悪であり、それに加担することは良心が許さないということだけ。

 ほとんどの人は他人を殺したいなどと考えないので、心情的にはフランツの考えは分かる。だが、同時に自分自身と家族を守るためには妥協も必要である事を知っているため、心はどうあれ表面上は戦争に協力する。協力しないと不利益を被るし、周囲の空気を読む感覚も重要だから。信念に殉じることがどれだけ難しいかを知っている。そういう妥協を繰り返すことで大人になっていく。

 もしそれができなかったら?その生き方はとてつもなく苦しいものになる。それが空気を読む能力の低い自分自身の身に迫ってくるから観ていて辛い。更に不器用ながらも自己主張を押し通すフランツの姿は、自分にはなれない理想的なものを感じたりもする。

 全般的にそんなフランツの姿が延々と描かれるため、精神的に来るきついものを延々と見せられ続ける。

 しかし問題として、この画面の美しさはどうだ。画面の一つ一つが絵画のようで、別な意味で目が離せない。 

(評価:★5)

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