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[コメント] セックスと嘘とビデオテープ(1989/米)

見事な三題噺。全部ちゃんとつながってます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ソダーバーグ監督のデビュー作。8日で脚本を書き、120万ドルの低予算で撮ったという低予算作品だが、ショッキングな設定と構成の上手さで大いに評価を上げ、この年のカンヌではパルム・ドールまで受けてしまった。後のソダーバーグ監督の活躍は言うまでもないが、その第一作からして傑作であったことが分かる。

 まさにタイトル通り、セックスと嘘とビデオテープの三つがこの作品の主題で、それらが絡み合って、物語を形成している。

 ビデオテープが普及したのは、技術的にはさほど重要な事ではないのだが、人間の精神はこれによって確かに少し変化した。ビデオは写真とは異なり、今の自分の考えやその姿を残すことが出来る。これは録られる側に立つと、かなり不気味なこと。カメラの向こう側にいるのが誰だか分からないし、不特定多数に自分のありのままの姿を観られるかもしれないのだから。しかし、これは同時に精神的には一種の快感ももたらす。誰か知られない人間に自分を観られるということは、ちょっとどきどきすることだし(現代で言えばブログやサイト作るのは、その快感があるからでもあり)、覚悟を決めてしまえば、あけすけに自分のことを語る事さえできる。これはビデオを録る側にも言えて、ビデオを録るというのは、目の前にいる対象者の“今”ではなく、“過去”を録ることになるのだから。動画サイトに上がってるとんでもハプニング映像なんかは、録ってる側が、それを過去と割り切っているから笑ってられる。もし目の前で肉親の事故が起こったら、ビデオを録ってなかったらそれは現在の出来事なので、すぐに助けに行くが、ファインダー越しの対象者は過去になるので、むしろ楽しんで写してるなんて事もありえる訳だから。

 そう言う意味で小物としてビデオというのはとても面白い存在。それにいち早く気付いたのがソダーバーグ監督の先進性とも言えるだろう。

 ただ本作の場合はビデオは小物で、本来のテーマは“嘘”を描いた作品だろう。この作品には数多くの嘘が描かれている。ジョンはアンに対してもグレアムに対しても嘘をつき続けていたし、シンシアもそれは同じ。

 だが、嘘は人につくだけでない。自分にも常に嘘をついてる。それでなんとか生活を保っていられるという側面は確かにあるのだ。ここではアンは、自分の生活は満たされていると思いこもうと、自分自身にずっと嘘をつき続けていた。だが、その無理が精神的に負担をかけていたのだが、ビデオを前にして、嘘をつかない自分自身の本当の気持ちを語る事が出来たことで、初めて自分自身がどれだけ無理をしていたか。その事を知ることになる。

 結果としてそれは今の自分を破壊することとになってしまうのだが、破壊された後の再生もきちんと描かれているので、本作の後味はとてもすがすがしい。時に人間は本音をぶつけ合わねば、生活も出来なくなっていくものなのかもしれないし。なんかそれが羨ましい気持ちもする。

 ある意味とてもカウンセリングマインドに溢れた作品とも言えるし、人間が本音を言える所ってどこなんだろう?と考えさせられたりもする。どこかで本当の本当に正直になれる所ってのが、どこかにあるのかもしれないな。

(評価:★3)

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