コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] シンドラーのリスト(1993/米)

やはりスピルバーグ。常に画期的なことをやってくれる姿勢に頭が下がります。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 キリーニーによる実在の人物オスカー=シンドラーの伝記をまとめた同名の小説の映画化。

 この作品の監督はスティーヴン=スピルバーグ。彼は監督としては一流と目されていたが、それまでどれほどヒットしたとしても所詮SF屋という目でしか見られなかった。確かにこれ以前にも『カラー・パープル』(1985)や『アミスタッド』(1997)、太陽の帝国(1987)と言った作品を監督はしていたが、彼の作ったSF作品ほどに話題にはならず、所詮賞狙いの手すさびと思われていたのは事実。

 しかし本作において、ようやく監督は、本当の一流監督として認めさせることが出来た。

 それほどまでのインパクトを持つ作品だが、映画史においてもこれは非常に大きな重要性を持っていることに気づく。

 実際、この作品はテーマも重く、更に描写に逃げがない。全てを真っ正面から捉え、克明にフィルムに収めているのだが、どうしたらこの重い作品を一人よがりなものにせずに、より多くの人に観てもらうために様々な工夫に満ちている。

 そもそも監督は実質的に世に認められた『激突』(1972)以来映像については様々なチャレンジをしてきた。実際監督がヒット作を作るたびに、以降の映画の手法が変わっていったと言えるくらい。パイオニア精神に溢れると言うか、「どうだ。これを観てみろ!」と映像を突きつけてる感じがするのだが(その挑戦者ぶりが彼を一流にさせなかったのも事実なのだが)、この作品に関しては、一見それが感じられない。むしろ何で今の時代にモノクロ?と言う印象しか受けないのは確か。

 しかし、本作はモノクロだからこその強みというものをはっきりと打ち出す結果となった。

 モノトーンの映像というのは色彩的に落ち着いているため、物語そのものも落ち着いた雰囲気を演出しやすい。特にシリアスな物語であるほど、画面そのものにはあまり起伏を持たせない方が良いと言うのが一つ。

 もう一つは第二次世界大戦の時点では既に映画は誕生していたため、記録映像で我々は現在でもその当時の映像を観ることが出来ると言う点も挙げておくべきだろう。記録映像だから狙って撮ったものではない分、映像そのものの質はあまり高くない。粗い粒子が画面を飛び交うし、カメラも次々にパンし、たいへん観にくい…が、その映像に我々は慣れているという事実がある。

 つまり、これが第二次世界大戦を撮っていると言う前提であれば、粒子が粗いモノクロ映像だと、逆に凄くリアルに感じるという事実である。我々の目の錯覚を上手く利用出来たと言うわけだ。

 その端的なものが劇中意味ありげに登場する赤い少女の描写。彼女は言葉を発することもなく、十把一絡げであっけなく殺されてしまうが、死ぬ時も尚モノトーンの中で赤い色を際だたせていた。十把一絡げのあっけない死。しかしそれが実はシンドラーの心にどれだけ強い印象を与えたかと言うことを映画でははっきりと示していた。事実、あの名もない少女の死こそがシンドラーに一歩踏み出させる事を促していたのだから。  カメラアングルによる対話の緊張感もある。喋っている人間はあまり登場させず、むしろカメラを不思議な位置に置くことで、不安を感じさせたり、あるいは逆に意志を感じさせたりもしている。

 物語の質の高さはもちろんのこと、新機軸の撮影方法も取り入れられ、一種のエポック・メイキングな作品として評価されるべき作品だとも言えよう。

 それと最も重要なことはもう一つある。

 このテーマの作品にこれだけの金をかけるのは、世界広しといえども、スピルバーグ以外にはいない。と言うこと。実際「金でオスカーを買うつもりか?」などと口さが無い人間は悪口を言っていたもんだが(実はかく言うこの私も当時そうだったんだが)、ユダヤ人という民族性と、本当に“これを作りたいんだ!”という主張を持って、これまでの自分が得たテクニックを存分に用いつつ、更に画期的な要素までぶち込んでくれた本作については、文句を言えなくなる。スピルバーグにしかできないというのは、こういう事も含めて言える。

 ところで、本作には裏話としても大きな技術革新が使われている。本作はポーランドで撮影だったが、ジュラシック・パークの編集作業が残っていたスピルバーグはインターネットを用いてポーランドで編集を行ったと言う。色々な意味でエポックメイキングな作品だったというのは事実だろう。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)フランチェスコ[*] アルシュ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。