[コメント] 社葬(1989/日)
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日本特有のシステムとして存在する“会社”という組織。これは世界的に見てもとてもユニークな構造を取っている。システム的には終身雇用制と年功序列制が二本柱だが、そのシステムをとても日本的なものとなった。
日本人にとって会社とは、営利団体であると同時に“家族”のようなものでもあり、同時に“宗教”のようなものでもある。会社組織に身を置く人間は多かれ少なかれ、会社に体どころか心まで預ける形となっていく。
今やそれらのシステムは崩れてしまっているが、昭和の時代にはそのシステムは色濃く残っていた。
ただし、これらを観て分かるとおり、どんなに家族的な雰囲気があったとしても、その根底は営利組織であり、厳然とした厳しさというものがあってこそ会社は成り立つ。 非人間的なシステムと、人間的なつながり。この二重の相容れないものをバランスを取って存在したのが、昭和時代の会社組織というものだった。
この矛盾を突いたものとして、コメディではあるが、森繁久彌の社長シリーズなどがあるが、その会社組織というものをハードに描いたらどうなるか。本作はその挑戦とも言える構造を取る。そのため、この物語は規模は非常に小さい。会社組織を批判している訳でもない。一つの会社の、しかもその葬儀を淡々と、しかし豪華メンバーを擁して華々しく描いているのが特徴だろう。
会社人間として生きる男は家庭を顧みず、ひたすら会社のために尽くし、そして余暇は愛人のために使う。主人公はあくまで普通の男で、しかし一本筋を通すことを本懐としている。この生き方は武士道にも通じている。
そのような、現代の武士の姿を描こうとするのが本作の狙いだったのかも知れない。少し設定を変えさえすれば、これは江戸時代の時代劇としても作れるし、日本人のメンタリティは変わってないことをちゃんと描いているようにも思えた。
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