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[コメント] バートン・フィンク(1991/米)

この作品観るまでは、実はコーエン兄弟作品嫌いでした…今は大ファンです。もっと評価されて欲しい。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 一見映画界の内幕もののように見える作品だが、実際に展開するのは不条理劇。カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受けたものの、その評価はまっぷたつに分かれたそうだ(審査員にポランスキー監督がいたからの受賞と陰口も叩かれる)。

 ところで私だが、最近特にコーエン兄弟作品が心地よくなってきた。前はあの微妙な間が分からなくて、コメディとして観ることが出来なかったものだが、最初に本作を観ることで、ようやくその“間”を掴めた!と言う感触を得られたお陰だ。

 コーエン兄弟作品の一つの魅力は、どんな作品を作ってもこういった不条理的シーンが出てくるところにある。ただその描写が結構微妙なものがあったりして、単なる設定のミスではないか?とか行動に一貫性が無いじゃないか?あるいはご都合主義。とこれまで思っていたものだが、本作を観ることで、ようやくそれが演出的な狙いであることが分かった。ボタンを掛け違えていたのがようやくこれでちゃんとボタン掛けられた。という気分である。

 そもそも私は悪夢を題材とした不条理映画が大好きで、現実世界と思われていたのが、とんでもない事態に巻き込まれてあたふたしている内に、実は全く現実世界とは別なものに入り込んでしまっていたというパターン、しかもその悪夢には現実世界の一片が確かに存在しているというメタなものが大好きなのだが、そう言う意味では、本作は見事なほどに好みに一致している。

 それらを可能としているのが独特の間だが、それ以外にも本作には数多くの見事な演出が込められてもいる。特に音の演出は素晴らしい。物語の多くは狭いホテルの一室で、しかも主人公のタトゥーロ一人しかいない状態で展開する。だからこそ、そこでの音というのは大変重要。目に見えないからこそ、不安を増させ、精神を苛立たせる音に溢れている。しかもその大部分は本当に音だけ。実際にその音源を探しに行っても、全然見つからない。これはホラー的手法だが、この効果は精神的な不安を徹底的に強調するという点にこそ恐ろしさがある(近頃のホラー作品はその辺を重視しているのは結構ありがたいが)。

 内弁慶で、突然の事態に対処することのできず、右往左往する主人公をタトゥーロが見事に演じていたのが印象深いが、やはりこういうのにつきもの。異彩を放っていたのがグッドマン。やっぱこの人の演技は素晴らしいわ。基本的に怖そうな表情を一切見せないし、最初に現れた笑みとラスト近くに見せる笑みが一切変わらないのに、シチュエーションの異常さで、鬼気迫るものに見えてしまう辺り、よく使い方を分かっていらっしゃる。

 実は話そのものはあまりつながっておらず、全てはバートンの脳内で起きた幻想である。と位置づけることも出来るのだが、圧倒的な悪夢的雰囲気を持って迫ってくる作品である。

 少なくとも、ようやくコーエン兄弟作品が面白いと思えるようになったと言うことで、私にとっては貴重な作品である。

(評価:★5)

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