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[コメント] パリ、テキサス(1984/独=仏)

触れあっていれば分かり合えるのか?非情に暗示に富んでます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 独特な作風で微妙な人間関係を描き続ける監督ヴェンダースの傑作ロード・ムービー。ヴェンダースはそもそも低迷を続けていたドイツ映画界で頭角を現した監督であり、彼の登場によってドイツ映画は国際的に復興していったという、ドイツ映画界にあっては恩人とも言える人物ではあるが、世界的に有名になったところでハリウッドからもお呼びがかかった。その第一作目はコッポラに招かれて制作した『ハメット』(1982)だったが、トラブルによってアメリカ式映画作りに大きな失望を抱き、本作は自らのプロダクション、ロード・ムービーズ・プロと、パリ、イギリス資本で製作した、アメリカでの第2回作品。脚本のシェパードも、演技者としてだけでなく、脚本としても一流であることを内外に示し、二人揃っての本当の出世作となった。

 普遍的な人間関係を、当時の風俗を絡めて描くのだが、ヴェンダースらしい乾いた色遣いの中で、この当時の人間関係の希薄さと言うのもよく現している。

 特に夫婦関係の描写は特筆すべき。触れあっている時は分かっていそうでお互いに全く分かっていない。だけど、遠く離れ、触れあうことが出来なくなった時こそ、むしろ互いに本音が言える。全くこの鏡越しのラブストーリーの演出には脱帽ものだよ。当初一方的に喋るしかできないトラヴィスが、喋っている内に自分自身の気持ちに気づいていき、当初の無表情がどんどん歪んでいく。一方、その告白を聞いている鏡越しのジェーンが、話している内に相手が誰だか分かっていく。だけど、一方的に見られているので、それを悟られないように、逆にどんどん顔が強ばっていく。敢えてそれを見ないように強いて背中を向けるトラヴィス…このシーンは本当にすごい。

 それで家族は元に戻るのか…分かり合えたと思うのもやはり幻想。リアルに耐えきれないトラヴィスは一人去っていく。去っていくことが正しかったのだろうか?それとも…その辺を曖昧にしたことは狙いだったのかな?

 ヴェンダースを特徴とする乾いた色遣いも映えてる。最初の赤茶けた荒野を一人佇むトラヴィスの姿。そして人間関係が深まれば深まるほど濃く、暗くなっていく風景。その辺がまるで心象風景みたい。見事な演出だったよ。

 ただ、ハリウッド資本を否定したことが本作の制作にも影響を及ぼし、撮影は順調だったが、ドルの高騰によって予算超過を余儀なくされ、それに伴う脚本変更やキンスキーのスケジュール調整などが上手くいかず、撮影中断を余儀なくされる。無給スタッフもいたという。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)Orpheus ダリア[*]

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