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[コメント] パリは燃えているか(1966/仏=米)

フランスにとって非常に複雑な思いを持つ第2次世界大戦。その一端を垣間見た気がした。(久々に本気で長いレビューを)
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 戦争映画は結構好きなんだけど、色々観てくると、第2次世界大戦についての戦争映画にはお国柄というものが良く出ているのが分かってくる。乱暴な括り方を許していただければ、イギリスやアメリカは戦時中にも高揚映画を作っていただけあって、戦争の悲惨さの中に明るさや、戦争以前、戦争後の生活をしっかり見据えて作られている。対してソ連製の映画は戦いそのものがクローズアップされる傾向がある。他にイタリア映画や日本映画だと、韜晦の嵐が吹き荒れている。ドイツになると、やっぱり極端に少ない。全てドイツで作られたのは『U・ボート』と『スターリングラード』(1993)くらい?。

 それでフランス映画だとどうか?

 あれ?そう言えばフランス映画で戦争の映画って、何があった?フランスやフランスの植民地が舞台の映画は多くあるし、役者もフランス人を用いているのが多いけど、実際考えてみると、それらは海外資本で作られたものばかりだ。実はフランス人って戦争映画を作ってなかったのでは?調べてみたら、非常に少ないながら、何作かあるみたいだけど、全然知らない題名だった。知名度が今ひとつ。戦争そのものを映画で作りたくない。と言うのも一つの姿勢なんだろうか?実際本作も、パリを舞台として監督はフランス人のクレマンとは言っても、資本はパラマウントだし、脚本だってアメリカ人が書いてる(共同脚本の一人はコッポラ)。土台使われてる言葉が英語だ。

 この理由を考えると、単純に戦争映画がフランス人好みじゃないって事もあるんだろうけど、複雑な感情があるんじゃないかと勝手に推測している。以下は一応その理由。

 フランスは当初単独でドイツと戦っていたのだが、1940年6月にパリが陥落。政府は刷新され、親ドイツのヴィシー政権が発足する。首班はペタン元帥だが、84歳という高齢でもあり、誰の目にもこれがドイツの傀儡政権であることははっきりしていた。

 政治的問題はそれで良いとしても、実際戦っている兵士達にはやりきれなさが残る。今まで敵として殺し合っていたドイツ人と手を結ばねばならず、共に戦っていたイギリスを、今度は相手にしなければならないわけだから(フランスの艦艇の歴史を見るとなかなか興味深い。パリ陥落の報を受けると同時にいきなりイギリスの艦隊が砲撃を加えてきたとかの悲惨な例もあるし、偽装で沈没させて後で自由フランス政府所属として復帰させたとか、曳航中にいきなり自沈したとか…)。当初のヴィシー政府はペタンが国粋主義的なものにしようとしたらしいけど、その後ドイツの衛星国として続いていくことになる。

 そう言うわけで、兵士達の中には正規軍を脱走し、潜伏に入るもの、パルチザンに走るものも多数出るようになった(パルチザンは外から見ると相当に勇猛果敢に見えるけど、フランス国内においては、反政府組織な訳だから、決して大手を振っていられたわけではない)。それにドイツの傀儡とは言っても、ヴィシー政府の中には心情的にフランスを何とか助けたいから、自ら防波堤となるため政府に残った人間もいるだろう。その後の連合軍のパリ解放(『パットン大戦車軍団』にその辺は詳しい)により、今度は連合軍の一国としてドイツに宣戦布告…

 …ゴチャゴチャ書いてしまったけど、要するに、フランス人にとっての第2次世界大戦というのは、あまりにも複雑すぎる戦争だった、と言うこと。戦犯国であるドイツに対しても、交戦→敗戦→同盟→解放→交戦と、複雑な事情があり、ドイツを悪く書きすぎると、今度は自分たちの首を絞めかねないと言う状況があるのではないかと。(勿論これは勝手な推測だけど)

 と、あんまり長々前置きを書いてしまったけど、要するに本作はフランス映画であってフランス映画ではない。と言うことを言いたいだけだと今更気が付く(笑)

 さて、内容だけど、ここにはフランスを代表する男優達およびイギリス、アメリカから大スターを呼び寄せ、豪華キャストを用いて作られている。大スターが次々と登場するので、それを観ているだけでも楽しいんだけど、なにせストーリーが分かりづらいところがあるし(ある程度歴史を知っていると思っている私も、かなりこんがらがった。まだまだ修行が足りない)、誰がどの場所で何をしているのか、非常に把握しづらい。

 と言うことで、一見では分かりづらい内容になってしまい、いくら内容が詰まっているとしても物語としてはさほど評価出来にくいのだが、本作には非常に大きな売りがある。

 他でもない。パリの街を本当に用いて銃撃戦をやらかしてくれたこと。凱旋門を背景に土嚢を積み上げ、火の手が上がり、MG42やらMG34(MG42は結構良く出てくるけどMG34は滅多に映画には出ないんだよ)やらと対峙するパルチザンの面々。もうこれだけで痺れた。本当に町中でこんなのやらかすなんて凄いな。しかも銃撃戦は普通用いられるように電気と火薬を用いる方法じゃなくて、本当に弾の出るモデルガンを使ってる。お陰で着弾がとてもリアル。銃撃戦のリアリティだけで言えば最高の部類に入るぞ。

 芸術は永遠だという。だけど、本当にあっけなく潰されてしまうこともままある。パリはそのまま芸術的文化と言っても良し。それを破壊しようとする事実があったと言うこと。そこをもう少し突っ込んだ方が良かったんじゃないかなあ。最後のヒットラーの「パリは燃えているか?」との言葉だけで充分に楽しめたけどね(これは伝説なんだけど)。

(評価:★5)

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