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[コメント] Z(1969/仏=アルジェリア)

政治を真っ正面に描きながらシニカルなユーモアを決して忘れない。社会派作品の名作は伊達じゃありません。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 政治的な実話を元にしているだけに、内容は危険極まりないし、作り手側も下手すれば命を狙われる可能性さえあるのに、この余裕のある作り方はどうだ。極めて高いエンターテインメント性と、それ以上にシニカルさとストレートさを併せ持つユーモアのセンスは出色。

 声高に民主化を語るZ氏に対し、それに共感するのは学生を中心とするインテリな若者ばかりで、彼らが頑張れば頑張るほど周囲が冷ややかになっていく。いくら政府から金をもらったから。という理由はあるにせよ、Z氏を殺した人間はZ氏に言わせれば政治的貧困者であり、Z氏は理念的にそう言う人を救おうとしていたはず。結局そいつらにZ氏の言葉は届いてはいなかった。という事実。ラストシーンで「Z氏は又現れる」という暗示のロゴ…これ「快傑ゾロ」じゃんよ。

 一方、生活は苦しいのは苦しいなりに、したたかに生きている庶民の力強さとこすっからさも存分に描写される。かつて筒井康隆が「“雑草のように生きる”という意味の真理を見つけた」とどこかで書いていたのだが、なんでもそれは雑草というのは抜こうとすると根が地中に張り巡らされているので、地面にへばりついて離れようとしないことと、無理に抜くと、そこら中にある草花まで抜けてしてしまうから。だそうだ。雑草のように強いというのは、絶対に一人では死なないどころか、大切なものまで道連れにしてはばからない存在だと言える…酷い話だが、わたしの主張ではないのでご容赦を。しかし本作を観てると、まさしく“雑草のように生きている”人ばかりが目につき、その見苦しい生き残り方を、そのままコメディとして映してしまってる。これまた凄い話ではある。「大衆の力を信じる」とかで結ばれてないのはよっぽどの皮肉だ(暗示はされているとはいえ)。

 役者の凄さは言うまでも無かろう。Z氏を演じたモンタンは、今回はあんまり個性を見せなかったが、豪放で正しいことを言っているのだから、わたしは大丈夫。と胸を張って殺されてるあたり、ちょっと痛々しいような気もするが、シークレットサービスの黒服の中に埋もれてしまう現代の政治家とどっちが格好良く見えるか。と言われたら、間違いなくこちらの方が格好良い生き方ではあろう。

 だけど、本作の一番推しはやっぱりトランティニャンだろう。外見から言動まで全て融通の利かない四角四面のような姿をしていながら、法律に反することは何事も許さない。という揺るぎない信念を持ち、最後は政府を相手取って堂々と渡り合ってる。本人の姿は全然変わってないにもかかわらず、どんどん頼りがいのある男へと変化していくのは演出力よりも物語の持つ強さであろう。初登場時と終わりの時の姿がこれだけ変わって見えるキャラも希有だ。

 それらの人間の強さも、最後は全て政治的な抹殺という悲劇を呼ぶわけだが、それだって決して悲惨なものではない。闘争は終わらない。その力強さに溢れるラストシーンはまさしく映画史に残る名シーンだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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