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[コメント] 破れ太鼓(1949/日)

木下監督らしく、少々説教じみた内容だけど、充分コメディとして楽しめる作品。昔の作品と言うだけでなく、普遍的なテーマを扱った作品として、オールタイムでお薦めしたい作品です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 戦前の大スター阪東妻三郎は、戦後になって現代劇にも手を出し、ここでは色々な役を演じていた。本作は彼にとっては珍しい喜劇だったが、このはまり具合はなかなか小気味よく、意固地で頑固な親父をのびのびと演じていた。声も割と抑えることもなく、男にしてはやや高めだったが、これがヒステリックなキャラクタには実に良く合う。新境地と言うよりははまり役にさえ見えてしまうほど。お陰で周りのキャラを完全に食ってしまってたけど。

 ところでこの作品は戦後4年で作られたと言う割に、大変内容はモダン。僅か数年前の廃墟の描写から一転し、成功者の目から見た日本という国がここには描かれる。敗戦後僅かこれだけでここまで伸びやかな作品が作られたという事実にも驚かされるが、同時にここには将来の日本を暗示するかのような、競争社会の原理も又、描かれていた。阪妻演じる津田は成功者であり、ワンマンなやり方を通してきて、それが成功の原動力となっていたし、その価値観を子供にも押し通そうとしている。しかし彼の影響力というのは、結局経済力で計れるものでしかない。だから、その経済力を必要と思わない人間にとっては、その押しつけは重荷でしかない。だから結局家族は彼の元を離れていき、そして最後はこれまでの価値観の転換を余儀なくされた津田は家族との和解へと進んでいく。この作品の先見性は大変なもので、これから高度成長時代へと転換していく日本ではしばしこれは切り捨てられ、その価値観が復活していくのは実に20年が経過した1970年代になってから(アメリカでさえ、この価値観に気づくのは1960年代になってからだ)。それにこの問題は現代の問題でもある。旧来の価値観と新しい価値観のぶつかり合いが起こっているその時だから出来たのかもしてないし、あるいはあまりにも先見性が溢れすぎていたのかもしれない。今からしてみると、時代を観るためには必須の作品と言っても良い。

(評価:★4)

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