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[コメント] ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!(1964/英)

映画としての完成度そのものは粗削りですが、自らの姿を自然にパロディ化できるビートルズの立場を最大限よく活かした作品とは言えます。これが出来たのは当時ビートルズだけ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ビートルズの第1回主演映画。すでに音楽ではイギリスはおろか世界のトップスターとなっていたが、彼らはみんな音楽だけでなく、積極的に映像世界へのチャレンジを続けていた。新しい手法を映像の中でも試みようと言う積極性がここにも見えている。

 本作の第一の試みは、本当に日常が忙しいのだから、それを題材にしてしまおうと言うセミ・ドキュメンタリー・タッチで作ってしまったこと。この形は、演技についても撮影についても素人が映像に積極的に関われる形を生み出した。スタジオの中で徹底して管理された演技ではなく、自然体で自らを演じると言う事自体が映像表現になると言う、ポップ・アート作品を作り上げたわけだ。

 二つ目の試みは、これを素直な若者観にしていると言うこと。たとえ大スターであっても、ビートルズの面々の内面は普通の若者である。と言うことを強調していること。街に出れば彼らは普通の若者にすぎず、大人の押し付けには反発し、仲間内でも仲良しなだけでなく、時として喧嘩もするし、互いに言いたくても言えない鬱々とした感情もある。その点素人臭さはむしろ自然な演技となっているのが面白いところ。音楽界のカリスマである彼らが普通の若者と違わないという事実は、逆に彼らを魅力的にすることに成功している。演技の上手い大スターではなく、そこら辺にいるような若者も、映画では魅力的に作ることが出来る。イタリアで誕生したネオ・リアリスモ的な手法がポップ・アートとしてイギリスでよみがえり、これが数年後に世界の映画のメイン・ストリームへと変わっていく。

 ネオ・リアリスモ的手法と先に書いたが、映像表現そのものはかなり誇張も多く、ヌーヴェル・ヴァーグ…というよりは、シュールレアリスムの手法が多様されているのも特徴だろうか。

 これまでの作品とは一風変わった作風は、後の映画に多くの影響を与えることになった。単なるアイドル映画としてでなく、映画史においても重要な作品。特に60年代の映画を語るならば、必須の作品と言えるだろう。

(評価:★3)

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