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[コメント] 機械じかけのピアノのための未完成の戯曲(1977/露)

白い白い。観るものみんな白い。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 チェーホフの戯曲は、見た目全然ドラマがない。大きなトピックはない、ほんのちょっとした、いつもと違う出来事の中で、それまで隠し続けてきた本音がちょっとだけ出てくる。という雰囲気がある。その微妙な心の動きを表現するのが戯曲としての巧さなのだろう。短編小説のように文章で読むとさほど面白くないのだが、それなりの演技者が舞台劇で行うと、その微妙さがびんびんに伝わる気にさせてくれる…いや、素人演劇でも結構面白いんだけどね。大学時代に味あわせていただいたし。

 その舞台が映画になると、更にその面白さが増す。微妙な雰囲気を、役者のみならず、舞台そのものを暗喩として使えるため、演技者のみならず、画面の端々にまで配慮が行き届いているのが見て取れる。まさに本作は「チェーホフ」という感じ。多分ここまで作れたのは、本作を作ったのがソ連の監督だからこそなんだろう。

 本作は演出の突出さに目が行くが、本当にこの作品ほど「白さ」というものが映えた作品も少ない。深い緑の中に白亜の建物。その中に登場する白い服装の人々。光と闇のコントラストが見事に映えている。しかし、どんなに明るくとも、人の心はどこでも痛々しい。それを見事に切り取って作り上げてくれた。

 何より本作を特徴づけているのは、本作がペレストロイカ以前のソ連で作られたという点にこそあるだろう。貴族を認めない社会主義国家だけに、物語の基調は貴族達の否定にあるはずなのだが、それを感じさせない作りが見事。実際これが作られた当時はこの描写は貴族の否定にあったのかも知れないけど、今の時代の目で観ると、まるで大学時代のどうしようもない一日につながっているよう。逆に近親感を抱いてしまった。時代によって見方は変わるが、観る人に常に何かを与えてくれる作品なのだろう。

(評価:★4)

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