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[コメント] Versus(2000/日)

ひと言で言えば「馬鹿な作品」なのですが、その「馬鹿」もここまで突き抜けてくれるとほとんど爽快感に変わってしまいます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 様々な話題に上る北村龍平の名前を国内外に轟かせた作品で、少なくとも本作の投入により“只者ではない監督”というイメージ作りは成功した。

 思えば、子供の頃にロボットアニメや特撮に燃えた人間であれば、ある程度の年齢になると自分で某かの物語を作りたくなるもの。で、頭の中で空想する物語と言えば、やっぱり決闘シーンありの、銃火器の壮絶な打ち合いシーンあり。更にホラーまで加えれば、ぐちゃぐちゃドロドロシーンありのシーンばかりが思い浮かぶもの。物語なんて二の次。むしろ見せ場シーンばかりを考えてしまう。

 …勿論当たり前の話だが、普通そう言うものは想像の中に止まってしまう。自分でそう言うのを作ってみようと文で書いたり、絵で描いたりすることはあっても、限界があるし、大体は途中で飽きてしまう。それが普通の人間ってものだと思うのだが、世の中には時折そう言う常識を粉砕し、本当に、ただ自分の作りたいものを作ってしまおうというモチベーションを保ち続ける人間というのが存在する。そう言う人間こそが映画監督となり得るのだが、更にその中でも、数少ないが、人からどんなにそっぽ向かれようとも妥協無く自分の好きな“だけ”の作品を作ってしまえる人間がいる。海外では『死霊のはらわた』(1983)作ったサム=ライミや『サンゲリア』(1979)作ったルチオ=フルチとかがそう言う人間の代表だろう。で、明らかにこの二人の監督の影響をモロ受けしながら、独自の映像表現を突き詰めたのが北村龍平という監督。本当にただ作りたかったのを作ってみました。って感じの作品に仕上げてくれた。元ネタを考えても、明らかに先に挙げた2作のみならず、『ハイランダー』(1986)やら『ブレインデッド』(1992)やら『男たちの挽歌』(1986)やらのオマージュが感じられ、1980年代のテイストに溢れている。

 冒頭からほとんど伏線も意味もなく繰り広げられる銃撃戦。理屈も何もなくワイヤーアクションで殺し合いを始める男達。意味不明に甦り、人間よりも元気な死体。人体のパーツを使って平然と行われるギャグ…設定だけ見たら「どんな素人作品だ!」と思われるものを、少なくとも本当に映画としてまとめてしまったという、それだけでも充分評価されるに足りるだろう。

 実際、確かにテイストは1980年代かもしれないけど、流石この年代だけあって、CGやワイヤーアクションの多用。徹底的に凝りまくったアングル、たたみ込むような戦いの演出など、「どうやったら格好良くできるか」を徹底して考え抜いて作られているのが特徴で、「どうだ。これは格好良いだろう」と言わんばかりの作品に仕上がってしまった。

 映画界においてこういう馬鹿は貴重。だってこういう馬鹿になりたい自分の代わりになってくれた人がいるってだけでなんか励まされる気分になる。はっきり言えば羨ましい。

 …とは言え、流石にストーリー自体を放棄してしまったため、映画自体の完成度はどう見ても低く、これが受け入れられるのはかなり限られた人たちだけだろう。日本の生んだカルト映画として受け止めるのが正しいか。

 尚、本作は共同脚本として山口雄大がクレジットされているが、実はこの二人は第1回インディーズムービーフェスティバルでのライバルでもあった(この時は北村監督がグランプリを得た)。の撮った自主製作ギャグ映画『手鼻三吉と2志郎が往く』を観た北村監督が是非と言うことで指名したのだとか。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)平敦司[*]

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