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[コメント] 馬鹿まるだし(1964/日)

とってもバランスの取れた作品です。タイトルで損をしていることを除けば。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 男はつらいよシリーズで邦画を引っ張ってきた山田洋次監督だが、実はその前に一つ、どこか寅さんを思わせる男を主人公にしたシリーズを作っている。

 「馬鹿シリーズ」という、あまり大声で言いにくいシリーズで、主人公はハナ肇で一貫させ、流れ者の粗暴者でありながら、気が良く、困った人を前にすると黙っておられず、惚れた女にはとことん尽くす。実際これが寅さんのプロトタイプとまで言われるまでよく似た主人公像を作り上げている。1964年に集中して3作作ってそれで終わってしまったが、今観ても大変面白いので、これだけで終わってしまったのはちょっと残念なところ(それが「男はつらいよ」に流れていったのだとも言えるが)。

 その第一作となるのが本作で、どこか『無法松の一生』(1943)の松五郎に似た物語だが、主人公が基本的にあまり深く物事を考えないタイプで、更に祭好きでどんなことにも首を突っ込むという人物にしたため、かなりコメディ調に仕上げられているのが特徴。  主人公安五郎のその一途な心を、笑いにくるめながら大切にしてるのがよく分かる作風で、その恋心を知らないのが当の御新造さん本人だってのが歯がゆく、実ることのない恋をしゃにむに駈けては馬鹿を見る安五郎のおかしさと愛おしさに溢れている。笑わせつつ最後はぴちっとまとめ上げた山田監督の技量も特筆すべき。

 それと、本作の背景も考えておきたい。本作の舞台となるのは小さな町だが、工場の誘致も成功しているから地方ではあっても結構開けている。おそらくは都会には近い。それ故組合などもかなり強く、彼らが言う“正義”を周囲に納得させられる土壌が揃っていた。地方やくざにとっては、彼らはあまり嬉しくない存在であるのだが、そんなことを全く知らない安五郎は組合闘争に首を突っ込んだ挙げ句、工員の方を勝たせてしまう。結局それが自分自身の首を絞めることになってしまう。旧来の伝統と悪習が“近代化”の波に飲み込まれる姿をしっかりと描いていることもポイント。

(評価:★4)

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